現地メディア「カイロ大声明は小池氏の再選目的」
連載第1回で、エジプトの軍閥が「カイロ大学の学長声明」を通じて、東京都知事選に政治介入した背景と権力構造を解き明かした。
カイロ大学は軍部・情報部に粛清され、長年、その支配下にある。学長の任命権を持つのが軍事政権のシシ大統領だ。情報部の方は、小池百合子氏が〝エジプトのパパ″と呼ぶハーテム氏が創設、掌握し、彼女を子飼いにしてきた文献証拠を示した。二人は小池氏のカイロ大学時代の一定期間、同居し、その関係は氏が亡くなるまで続いてきた。その間、ハーテム情報相の権力で小池氏はカイロ大学に飛び級の不正入学と裏口卒業(学業の実体はないが“超法規的”な卒業証書保持者)を果たす。また、そのハーテム氏からみれば、シシ大統領は軍閥序列のなかで孫弟子にあたる。
そのうえで前回、「カイロ大学声明」の政治的意図を明らかにした。それは、都知事選を前に、“学歴詐称”疑惑で窮地に陥るエジプト軍閥の“子飼い”小池百合子氏に再選させるためである。
これは私が憶測で言っていることではない。国家情報部の支配下にあるエジプトの現地メディアがはっきり、カイロ大声明は小池氏の再選目的だと書いている。
「カイロ大学、小池都知事のために都知事選に‟点火”」(ウェブ報道サイト「アルバラド」6月11日)
「カイロ大学、危機に瀕する東京都知事を救うために介入」(同「アハバーラック」6月11日)
「カイロ大学、都知事の卒業証書を認めない日本メディアに対し法的手段で脅迫」(「アルワフド」新聞ネット版6月11日)
軍の“諜報テレビ”取材で常軌を逸した小池発言
しかし、なぜそこまでして、小池氏をかばうのか。小池氏自身がエジプトの現地テレビの取材で種明かしをしている。
「私は100%エジプト人なの」
(小池百合子都知事、エジプト軍閥系テレビネットワークDMC、2018年8月30日インタビュー番組での発言、都庁で撮影)
小池氏がこう語ったテレビ局DMCとは、軍最高評議会議長シシ(現大統領)が軍事クーデター後、軍閥のプロパガンダを流すために開局した新興テレビ局である。軍や政府の要人への取材や機密性の高い場所へのアクセスは、この局だけに許されており、現在、独占的な洗脳メディアとしての地位を築いている(そのYouTubeチャンネルは登録者数500万人を超える)。
国内プロパガンダに加え、DMCにはもう一つの目的がある。
「DMCはシシ率いる国家の公式の声であり、エジプトを攻撃する外国メディアに対抗するために創設された(中略)そのため、別名『軍の諜報テレビ』『シシ・チャンネル』と呼ばれている」(ウェブ報道サイト「ノンポスト」2016年9月3日)
小池氏はこのテレビ局から東京都知事としてインタビューを受けながら、「私は100%エジプト人なの」と語り始めたのだ。政治家としてだけでなく、1人の日本人として、常軌を逸した発言である。〝子飼い″として、自分はエジプトの利益を代表していることを吐露したといえる。本人からすれば、エジプトの軍閥と国民向けのリップサービスに過ぎないのだろうか。
小池批判への強権的脅迫
冒頭で掲げた「カイロ大学声明」による都知事選への介入も、軍閥系DMCの目的と同じだと考えればわかりやすい。“100%エジプト人”の要人・小池知事を攻撃する日本メディアは、エジプトを攻撃したと同然とみなされているのだ。
では、都知事選への介入を認める一連の記事の中には一体なにが書いてあるのか。各記事に共通する箇所と主要な論点を抜粋する。
「小池東京都知事は、7月5日に迎える都知事選において、危機に瀕している」
「現都知事の反対勢力はその都知事戦を前にして、小池百合子氏に対し、疑惑キャンペーンと闘争を展開中である」
「都知事の反対派たちは、小池氏が取得した学位はカイロ大学に認められていないという情報を日本のメディアにリークしてきた」
「反対派の見解では、小池氏はカイロ大学の学位を取得していない、または、卒業証書はカイロ大学のものと異なるというものだが、それは真実に反する」
「カイロ大学は声明を発表し、日本のエジプト大使館がホームページでそれを公開したとおり、小池百合子氏は1976年、文学部社会学科を卒業しており、卒業証書に対し、日本のメディアが疑念を呈したことを非難した」
「カイロ大学はこれらの疑念に対して、法的な対抗措置を検討している。カイロ大学は世界でもっとも権威ある大学の一つであるから、こうした非難を無視することはできない」
「(声明を発行した)カイロ大学は(取材に対し)コメントを拒否しながらも、エジプト共和国の日本における公式代表であるエジプト大使館の発表した内容のどおりだと認めた」
現地メディアが解説してくれたように、カイロ大学の声明の意図は誰の目にも明らかである。小池氏の学歴を検証し、疑念を呈する者はみな都知事の反対勢力とみなし、小池氏に代わってエジプトが国家として、対抗措置をとるとの強権的な脅迫である。
「本声明は、一連の言動に対する警告であり…」と、もとの声明文にもその本意が書き込まれている。
脅しに屈してしまった都議会自民党
見え透いた脅しに聞こえるだろうが、効果は抜群である。この見え透いた脅しこそ、もっとも心理的な抑圧効果を生むというのが、エジプト国家情報部が得意とするプロパガンダ戦の基本である(小池氏と同居していた、情報部の創始者ハーテム著『プロパガンダ:理論と実践』未邦訳)。
実際、脅しの効果は抜群であった。小池百合子都知事の反対勢力である都議会自民党は「小池氏のカイロ大卒業の証明を求める決議案(6月9日)」を取り下げたのだ(6月10日)。
その理由として、川松真一朗都議は「声明直後に決議を出せば、僕らはエジプトと闘うことになる」(6月10日日刊スポーツ)と語ったが、まさにエジプト国家情報部の思うツボである。川松氏は「間違ったメッセージのようにとらえられかねず、冷静に判断した」と続けるが、それは脅しに屈した者が発する常套句そのものだ。
元々、尋常ではない脅迫メッセージを発したのはエジプト側であり、小池氏の学歴詐称疑惑(筆者の結論では、学業の実体はないが、ハーテム情報相の権力による超法規的な卒業証書保持者)はむしろ深まったと解釈するのが知性だが、それを吹き飛ばすのがプロパガンダである。カイロ大学声明が出たのは、決議案が出された同日の夜という絶妙なタイミングだった。現地メディアが報じたとおり、まさに「危機に瀕する東京都知事を救うための介入」に成功したのだ。
ここで日本の国益にとって問題となるのが、助け舟を出したエジプト軍閥への見返りは何か。借りを作ってしまった小池氏が何を差し出すかである。
この点についても、小池氏は自ら現地メディアの取材の中で何度も答えを示してくれている。
一例として、小池氏が環境大臣に就任後に受けた現地紙でのインタビュー記事をとりあげる。
「エジプトは私に対し、長い間、投資してきたと思っています。今では私への投資が有益で、成功であったことがはっきりしています。そうだよね!(筆者注:原文でエジプト方言の口語体での発言であることを強調して)」
隠喩的な表現なので、わかりやすく言い換えよう。ハーテム情報相を通じてえたカイロ大学の超法規的な卒業待遇というエジプト軍閥からの借りに対し、私は十分に見返りを果たしてきたと自負する発言だ。つまり、小池氏とエジプトは貸し借り関係にあり、過去の借りを国会議員になってから何らかの形で清算してきたという意味にとれる。
上の発言につづき、小池氏はこう述べる。
「日本は、環境分野を含む多くの協力分野でエジプトを支援しています(中略)神が望めば、エジプトは将来、さまざまな地域で日本からの協力プロジェクトを目撃することになるでしょう」(アハラーム紙2004年3月2日)
日本政府の大臣という要職に就き、小池氏はようやく包み隠さず、エジプトへの経済支援=見返りを現地の政府メディアでお披露目できるようになったのだ(その後の小池氏の見返りの詳細については、次回の記事で触れる)。
エジプト軍閥にとってみれば、今後、さらに利用価値が高まる「日本初の女性首相候補」と呼ばれる小池氏の都知事再選に助け舟を出すことなど、お安い御用だったというわけだ。
(続く)