正直言って、少し驚いたが、この場合はいい意味でだ。オーストリア議会人権委員会で先月23日、中国の不法な臓器移植取引問題がテーマに上がったというニュースを聞いたからだ。
中立国オーストリアは欧州連合(EU)の中でもロシアや中国と友好関係を維持することに腐心してきた国だ。これまでロシアのプーチン大統領をオーストリアに招いたり、核問題で米国ら欧米諸国と対立があるイランのローハ二大統領をウィーンに招待することなどは朝飯前だった。名目は紛争国との調停役だ。ヴァン・デア・ベレン大統領やクルツ首相は既に北京を公式訪問している。
中国武漢発の新型コロナウイルス感染が拡大した時も、オーストリア政府は日頃の中国との良好な関係の恩恵を受け、オーストリア航空を北京まで飛ばしてマスクや医療用防御服を早い時期に入手している。だから、北京の人権問題を正面から批判することはほとんどなかった。
そのオーストリア議会の人権委員会で中国の不法臓器取引問題がテーマの一つに上がったということは、関係者の勇気もあったが、もはやこの問題を見す過ごすことが出来なくなった結果だろう。
委員会では、「わが国は罪のない人々から強制的に摘出した中国からの臓器を必要としない」というのがトーンだ。それに関連した動議では、「中国で不法な臓器の取引が実施されているが、それらは人権、倫理基準に反する」と総括されている。
オーストリア与党「国民党」の人権問題担当グードルン・ク―グラー議員は、「中国では囚人からも組織的に臓器が摘出されている。特に、少数民族系、宗教少数派が犠牲となるケースが多い。ウイグル系、法輪功信者、キリスト教徒から不法な臓器摘出が行われている」と指摘、「世界保健機構(WHO)、国連薬物犯罪事務所(UNODC)、国連人権理事会などと連携して不法な臓器取引の犠牲者を保護しなければならない」と主張している。
なお、同委員会は4項目からなる動機を国会に提出した。
①中国の国家主導の臓器摘出の実施は非難されなければならない。中国政府には囚人からの臓器摘出を即停止し、独立した調査機関による不法臓器移植に関する公平な調査を受け入れるように要求すべきだ。
②中国で実施されている臓器移植ツアーを中止、ないしは防ぐために関連法の改正を求める。
③法輪功信者への中国共産党政権の迫害を即中止するように要求すべきだ。法輪功信者や少数派民族の即釈放を求める。
④オーストリア国民に中国の臓器取引の実態を啓蒙活動を通じて知らせるべきだ。
オーストリア議会の人権委員会に先駆け、ベルギー上院議会は6月12日、中国共産党政権主導の不法臓器移植取引を非難する決議案を可決している。同決議案では、「中国は、国連人権理事会特別調査官による調査の受け入れ、臓器の入手ルートに完全な透明性の確立、臓器移植に関する定期的な情報公開、臓器強制摘出に関わった疑いのある人物を起訴するなど、この問題の即刻停止に向けて行動すべきだ」と強く要請している。
ベルギー上院議会の決議案可決を報じた海外中国メディア「大紀元」(6月26日)によると、マーク・デメスメーカー議員は、「中国は共産党による権威主義体制下の社会で、閉鎖的な政治体制が厳しい。この政治システムの下で、法輪功やキリスト教徒、少数民族が『生きた臓器のドナープール』にされている」と語ったという。
中国政府は、一般的な死刑執行の数、死刑囚の臓器を使用した臓器移植の数を公表していない。国連拷問禁止委員会は2015年、中国政府に対して、「臓器の強制摘出疑惑など法輪功関連の迫害を調査するために独立機関の調査を受け入れるべきだ」と勧告したが、これまで実施されていない。欧州議会は2016年4月、「中国の良心の囚人から臓器を強制摘出する非難決議」を可決している。
中国は、2007年の臓器移植法により、臓器移植を目的に訪中した外国人に手術を行うことを禁止したと表明してきたが、例えば、天津市では臓器移植を受ける外国人旅行者が多い。韓国の人気番組「調査報道セブン」は2017年11月15日、中国臓器移植の闇を取り上げた番組『殺せば生きられる』を放送した。同番組によると、過去20年間で毎年約1000人、総計2万人が移植目的で韓国から中国へ渡ったという。移植を希望する韓国人は今日、天津市の病院でウイグル人から摘出された臓器を大金を払って移植してもらっている(「移植臓器は新疆ウイグル自治区から」2019年1月12日参考)
中国の不法臓器摘出の実態を報告したカナダ元国会議員のディビッド・キルガー氏は2006年11月21日、国際人権協会(IGFM)の招きを受けてウィーンで国際記者会見を開いた。同氏は弁護士ディビッド・マタス氏と共に、中国の不法臓器摘出疑惑調査報告書を公表し、「中国は国際社会の強い批判を受けたにもかかわらず、反政府グループの法輪功信者たちから生きたままで臓器を摘出し、その売買に関与している」と告白し、世界で大きな反響を呼んだ。同報告書は中国の不法臓器移植問題でパイオニア的な役割を果たした(「法輪功メンバーから臓器摘出」2006年11月23日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年7月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。