今年の定時株主総会はまだまだ注目すべき会社がありますね。その中でも7月末の東芝の総会が気になっております。7月3日付けの日経ビジネスWEBニュース「改正外為法の審査厭わず エフィッシモ、東芝に株主提案」に、エフィッシモ・キャピタル・マネジメント(ECM)の法務アドバイザー(国広正弁護士)と取締役候補者である杉山氏のインタビューの内容が掲載されています。
すでに「ECMが3名の候補者を選任する理由」を示したリリース(6月22日付け「第181期定時株主総会の開催及び株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ)でも記載されているとおり、ECM及び取締役候補者は、決して会社側取締役候補者を批判するのではなく、会社の推薦する候補者が取締役会の構成メンバーとなった場合に、同社取締役会の機能を補完するにふさわしい候補者であることを前面に出しています。
東芝の定款によると、同社取締役の人数は20名以下、ということなので、会社側議案、もうひとつの株主議案と合わせても(候補者全員の選任が可決されても)17名なので、議案は両立します。
会社側は「リスク管理体制はこれで十分だと思っているので株主提案には反対」としていますが、コンプライアンスやガバナンスに精通された方々が候補者となり、しかも「言行一致」といいますかECMの本気度を示すためにECMの役員自身が社外取締役候補者に名を連ねるというスタイルは、かなり斬新ですね。議決権行使助言会社や機関投資家がどのような判断を示すのか、とても興味深いところです。
ご承知のとおり、社外取締役に期待されるのは取締役会における監督機能の発揮、ということですが、どうしても不足してしまうのが「監督に必要な情報を収集する機能」です。「十分なフットワークを備えたハンズオンのモニタリングを行う」ことができる、というのは、不足しがちな情報を収集し、「おかしい」と声を上げることができるだけの内部統制の体制を構築するためには有用な職務行為です。
なお、「そのような業務執行に近いことが、果たして社外取締役に求められているのか」といった疑問の声も上がるかもしれません。ただ、令和元年改正会社法でも「社外取締役への業務執行の委託」に関する条文が新設されますが、業務執行取締役の指揮命令系統に属さないものであれば、たとえ社外取締役が業務執行を担ったとしても会社法2条15号イの趣旨に反することにはならず、むしろ、投資家の期待に応えうる機能を発揮できると考えられます。
東芝は指名委員会等設置会社ですから、そもそも不正の早期発見のためには内部統制を活用する、つまり社員を育成することによって「おかしい」と声を上げる雰囲気、不正発見に必要な調査スキルを向上させることが望ましいと思います。しかし、会計不正事件が発覚した際、東芝の優秀な社員で組織されていた「経営監査部」は、現場の効率性を上げるための指導機能ばかりに注力し、「おかしい」と声を上げるための保証機能を発揮することはなかったそうです(そりゃそうです。いくら声を上げても人事評価につながりにくいからです)。
ということで、独立性の高い人が社内調査や不正予防や発見のために必要な情報収集を促すことは、まさに架空循環取引のような組織の儲けとウラオモテの関係に立つ不正の再発防止にはとても有用ではないかと思います。コーポレートガバナンス・コード補充原則4-3④では「取締役会は、個別の業務執行に係るコンプライアンスの審査に終始すべきではない」とありますが、取締役会で取り上げるべきコンプライアンス上の問題とそうでない問題を(社内バイアスを排除して)整理する役割は誰かが担わねばならないと考えます。
また、東芝の米国子会社ウエスティングハウス社の損失問題を契機として東証の「上場会社の企業不祥事予防のプリンシプル」が策定され、グループ管理としてのプリンシプル(原則5)への対応も求められているなかで、東芝の子会社では何度か不祥事が繰り返されています。このようなプリンシプルへの対応にも配慮しなければならないでしょう。
なお、外資による日本企業への出資規制を強化する改正外為法とアクティビストファンドの権利行使との関係は、ZAITEN2020年8月号にも詳しく解説記事が掲載されていますね。「旧村上ファンド系」と言われて久しいECMですが、提案内容、提案理由とも至極まともですし、どれくらいの賛成票が集まるのか、今からとても注目しております。
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年7月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。