前回の最後で、「河野決断」の第二の意義は、抑止力をより確実なものとするための「反撃力」保有の議論を喚起したことにあると述べ、それは我が国戦後の安全保障戦略を根本的に転換する可能性があると指摘しました。ならば、その効用と正当性につき、国内的にも対外的にも説得力ある説明が必要です。
最大の効用は、抑止力の強化です。抑止には、①報復により耐え難い損害を与えることで相手に攻撃を思いとどまらせる「懲罰的抑止」と、②相手の攻撃的行動を物理的に阻止する能力によって攻撃そのものを無力化する「拒否的抑止」があるとされます。
また、②の拒否的抑止は、弓矢にたとえると、②a.射手をターゲットとする「積極的な手段」と、②b.飛んでくる矢を払いのける「受動的な手段」とに分けられます。我が国のミサイル防衛はもっぱら②b.に徹し、それ以外の①や②a.は米国による拡大抑止に委ねてきました。
ワシントンやニューヨークに届くICBM開発に成功しつつある北朝鮮のミサイル脅威の動向次第では、米国が本土防衛で手一杯になり、日本を射程に収める数百発のノドンやスカッドERなど中距離ミサイル排除を後回しにせざるを得ない状況も視野に入れておく必要があります。その場合、北の飽和攻撃や奇襲攻撃に対し、受動的な②b.能力だけで十分であると果たして言い切れるでしょうか。
ただし、①の懲罰的抑止は相手国の大都市や人口密集地への大量報復攻撃(通常は核兵器を使用)を行うもので、我が国が取り得る現実的な手段とは到底言えません。また、②a.についても、移動式発射機(TEL)から放たれる北のミサイルを適時に探知、追尾し、肉薄して精密攻撃を行う能力を保有するには膨大なコストを要することから、これも現実的な選択肢とは言えません。
我が国が新たに保有を検討すべき抑止力は、弓矢のたとえでいうと、「射手を支援」する関連施設―たとえば、滑走路や指揮通信施設、戦闘機等の格納庫や弾薬庫、燃料タンク等―を確実に無力化しうる能力だと考えます。これが、俗にいう「敵基地攻撃能力」です。もちろん、我が国が先制攻撃を行うことはありませんから、相手の攻撃の着手を感知した時点でこの能力を発動するとすれば、これはまさしく「自衛反撃能力」(佐藤正久参議院議員)というべきものです。
このような自衛反撃能力の保有であれば、「誘導弾などによる攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾などの基地を叩くことは、法理的には自衛の範囲に含まれ[る]」とした昭和31年の鳩山内閣答弁とも合致し、かつ、その反撃対象が相手国の軍事施設に限定されることからも、「性能上専ら相手国国土の壊滅的な破壊のためにのみ用いられる」と定義され、憲法上保有が許されないとされてきた「攻撃的兵器」にも当たらないものと考えます。
(下に続く)
編集部より:この記事は、衆議院議員の長島昭久氏(自由民主党、東京21区)のオフィシャルブログ 2020年7月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は衆議院議員 長島昭久 Official Blog『翔ぶが如く』をご覧ください。