勝てる投資、負ける投資

金利が地を這うような状態でも定期預金にお金を預けている意味は何でしょうか?巨額の資金を運用する年金基金や機関投資家は運用の発想とは安全と攻め、ブレーキとアクセルのバランスを考えます。欧州でマイナス金利でも預金をするのは預かり料を払ってでも安全の部分を確保することはトータルバランスで意味があるからです。

(写真AC:編集部)

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この発想は個人の資産管理でも重要で人生100年時代を迎え、勤労収入がある時代から長くなった老後にシフトする際、いかに上手に過ごすか、じっくりプランする必要があります。かつては退職して年金もらって5年から10年でお亡くなりになる程度の平均年齢でした。悪い言い方かもしれませんが、退職金貰ってパッと散ることができました。今は退職金貰ったあと30年以上ある時代です。いくら高齢者でも資金運用とそのセンスは身に着ける必要があるでしょう。

先日、当地のある銀行のウェルスマネージメントの方が高齢者向けセミナーをしていて「増やす」ということを一生懸命説いていました。私の周りのフィナンシャルプランナーも基本は増やすという発想なのですが、私は人生の長さに合わせて減らすという計画も必要なのだろうと思っています。勿論、相続して自分の資産を子孫に残すという発想もありますが、私はどちらかといえば使ってしまい、人生の終わりにチャラになる方がうれしい気がします。

例えば90歳になったらどうやって安全に減らすかと考えた場合、所有不動産のリバースモーゲージは有効な手段だと思っています。年金と合わせたリバースモーゲージからのお金で老人ホームに入るぐらいのお金は生み出せるかもしれません。そうすればそれ以外の金融資産でプラスアルファの生活をすればいい、という発想もアリです。こう考えると長く安全を確保することが第一義になります。

2-30年前に資産の1/3分散法なる考えがありました。不動産と株式と定期預金を1/3ずつ分散投資させよ、というものでした。正直、日本では個人住宅の不動産価値は特別なロケーションを除き、減額することが分かっていますのでそもそもこの1/3分散法はあまり当てはまりませんでした。どちらかといえば海外の不動産、例えばここバンクーバーは若干の調整はあっても極めて長い右肩上がりの直線が1986年から33年も続き、この先も続く見込みであるような場合には不動産が個人資産を長期的に増やすメリットは取れるでしょう。

日本では金利もほとんどないわけで定期預金もダメ、日本の株式はボラティリティが高く、NYのように様々な投資家がいる場合と違い長期安定成長は見込めません。そうみると日本は資産運用が難しい国ともいえ、高齢者の資産の安全安心に優しくないのかもしれません。

では最近話題の金(ゴールド)はどうなのでしょうか?様々な指標が出ていますが、金が買われるのは代替投資先だという点を決して忘れてはいけません。私は金投資は15年ぐらいやっていますが、一般大衆やプロが思うとおりにならない癖の悪さがあります。

理由は金価格のメジャメントがないからです。希少だから何かあった時の保険的な意味合いです。今の金相場は戦争が起きるとか、金が代替通貨にでもならない限り既に8合目か9合目ぐらいにあるとみていますので短期狙いでボラの高い金鉱山会社の株式投資ぐらいしか運用対象にはなりません。ただ金鉱山会社は配当が貰えるところもあるわけで、ひねくれた見方ですが、金利がつかない金というのは必ずしも正しいわけではないともいえるのです。

日経に「企業価値、コロナで一変 リーマン以来の順位激動 主役はDX・脱炭素」とあります。つまりビジネスの価値が時代と共に大きく変わってきたことを指し示しています。なぜ、テスラの価値がトヨタより大きいのか、貴州茅台酒という中国の白酒の会社がなぜ、コカ・コーラより価値が高いのか、ディズニーの時代からネットフリックスの時代になったのはなぜかなど多くの疑問があります。

私が10代の頃、新日鉄を代表とする製鉄業は日本のコメだなどともてはやされたのに今では企業名すら出てきません。電機メーカーの株価は値を飛ばし、ニッポンの代名詞だったのに今では散々な状況です。つまり主役はどんどん変わっていくのです。不動産が良かったのは昭和の時代だし、中期国債ファンドが大流行したのは80年代半ば。どれもすっかり様相は変わってしまいました。

となれば、読めない時代だからこそプロが運用する投資信託の方がいいのかもしれません。我々よりはるかに多くの知識と資金量をもっています。ただリーマンショックやコロナといった想定外の事態が起きると赤字を抱え、ファンド解散という事態も生じます。理由の一つにプログラムやAIが過去の実績をベースにデータ化しているためで新しい状態に対応できない弱さがあるのは一つ重要なポイントです。そこを判断できるのは今はまだ人間だけです。

老後という数十年のスパンで考えると投資をひとつの器に入れて掘ったらかしにしておく時代ではありません。こまめに時代の流れを見ながら数年ごとに見直しをするぐらいの熱意こそが勝てる投資であり、放置プレーこそ負ける投資ともいえるのでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年7月15日の記事より転載させていただきました。