人気焼肉店の経営者が語る「コロナ後に生き残る飲食店」

高橋 大樹

新型コロナの感染拡大を受けた緊急事態宣言で外食を自粛する人が増え、多くの飲食店は打撃を受けました。そこでネットメディアやYouTubeでは、「アフターコロナの飲食業界は180度変わらなきゃダメ。外食の中心はデリバリーやテイクアウトに変わり、店の運営やメニューもそれに合わせなければ生き残れない」といった話がよく聞かれます。

今回は、テイクアウトを導入せずに売上を4月、5月の前年比15~20%から6月の8割強にまで回復させた焼肉「京松蘭」の経営者に「飲食業界のアフターコロナ論」や「コロナ禍の3か月の教訓」などについて聞きました。

コロナ後の飲食業界は180度変わるか

最近、ネットでは「飲食業界の主流はテイクアウトやデリバリーに変わる」という「アフターコロナ論」がよく聞かれますが、そうした意見についてどう考えていましたか。

「そこまで変わるのは考えにくいなと思っていました。それは変わるかもしれませんよ、一時的には。実際にいま始めてみて、団体のお客さんはまだ以前のようには戻っていませんし」

「でも6月が終わってみたら、やっぱり当初の予想に近い結果にはなっています。予想より少し戻りが早かった印象ですが」

5月下旬の緊急事態宣言解除から、6月の最終営業日までの状況を教えてください。

「5月自粛明けからの3週間、またそれからの3週間をみたら、自粛明けのお客さんは2人組ばかりでした。でもいまは違います。4人組、6人組、10人組の予約も入り始めました

変わるのは一時的」と予想していたのは、どうしてでしょうか。

「過去の歴史から考えても、これまでにもたくさんの感染症がありましたが、それで飲食店の使い方が180度変わったのでしょうか?一時的には変わったとしても、結局必ず戻ってきているのではないか」

「もし変わるんだったら、もう変わっているはずだと考えました。でも現実はそうじゃないから、一時的には厳しいけど何回かアップダウンを繰り返しながら戻るだろうと。またそうこうしている間に、ワクチンが早く開発されることを期待しています」

休業期間中に考えたこと:もし「アフターコロナの飲食業界」になったら

以前、ツイッターに次のような投稿がありました。

俺は弁当屋や出前屋、通販屋になりたくて
肉屋になったんとちゃう。
世の中がそっちが主流になるなら
さっさとこの商売辞めるわ。おもんない。
せやろがいっ!!

色々と考える時間が持てたと話していた休業期間中のものだと思いますが、どのような心境だったのでしょうか。

自分にとっての飲食の醍醐味は、やっぱり食べにきてくれたお客さんと、多少は接して、付き合いがあって、その喜んでもらえる顔が、おいしいと言ってくれる顔がまともに見れる。幸せを感じてくれているのを、直接肌で感じられる」

「だから、他の仕事に比べたらまあまあしんどい職業だけど、楽しくやれるというのがあるからやっているのに。うちはただのビジネスとしてやっていませんから。その、まあ好きでやっているんですね。もともとは」

「もちろんお金儲け、利益を出すのは大切だけど、そういう楽しみながらちょっとやりたいという考えが京松蘭にはあるから。もしテイクアウトやデリバリーに世の中がなるんだったら、そもそもこの仕事を続ける意味がないなと。うちはそういう方針の店であるということです」

コロナ禍の3か月の教訓:大打撃を受けた店の共通点

まだまだ先はどうなるかわかりませんが、京松蘭としては前年比15~20%から8割強まで回復した4月から6月、このコロナ禍の3か月間を振り返ってみて、得られた教訓があれば教えてください。

「コロナで特に大きな打撃を受けているところを見ると、たとえばインバウンド客や同伴客に依存してきた飲食店などが挙げられます。そういう商売の仕方が、そもそも飲食店の本質じゃないのではないか」

「その顕著な共通点は宣伝や演出がうまかっただけであることです。もちろん宣伝は必要ですが、そういう二次的な価値にメインで力を入れていた飲食店が、今回深刻な打撃を受けていると思います」

「一方、本質で勝負してきたところはどうか。飲食店は、飲む食べるお店。美味しいものを、手際よく、自分でやるよりもはるかに安い値段、しかも他の店よりもリーズナブルに食べられる飲食店はどうか」

「たとえば、うちの店を家で再現しようとすると、何倍も時間とコストがかかります。十何種類の黒毛和牛メスの希少部位を集めて、仕込みをして」

「だから値打ちがあるということではないでしょうか。お客さんがコロナに細心の注意を払ってまで店に足を運んでくれる。今までのやり方が間違っていなかったと思いました」

コロナ後に生き残る飲食店とは

最後に、コロナ後に生き残る飲食店はどのようなところだと思いますか?

飲食店の本質を突いているお店の多くは、今回そこまで打撃を受けていません。本質で商売をやっておけば、とんでもない外部的な要因がきたとしても生き残れると思います」

「まずは本来のお皿の上にあるもの、その価格(それを可能にする仕組みを含む)、提供の手早さに立ち返ることが必要です。飲食店はそれができて初めて、宣伝や演出に力を注ぐべきだと思います」

以上、前回から2回にわたりインタビューの内容をお伝えしてきました。

「昔と今では利用できるテクノロジーが違う」という反論もあると思います。一方、コロナでデリバリーサービスを利用し始めた飲食店がその手数料の高さで利益を出せていない話も出始めているなど、テクノロジーを利用すること自体が目的化しているケースも多いのではないでしょうか。

緊急事態宣言を受けた自粛によって廃業に追い込まれた飲食店の中には、不運に見舞われたところも少なくないと思いますが、コロナは飲食業にとって大事なことを考え直すきっかけになっているのかもしれません。