新型コロナ 〜 なぜ東京の感染者は増え続けるのか

大澤 省次

NHKによると、7月17日の東京都の新型コロナ感染者(PCR検査陽性者)は293人を記録し、2日連続で過去最多を更新しました。同局によると、全国では595人となり、過去最高の714人に迫る勢いです。

NHKニュースより

感染者が増加すると、3週間後には重症者が、1か月後からは死亡者が増加します。ところが、なぜか今回はこの経験則は当てはまらないようです。

感染者が増加し始めたのは6月初めですが、1か月以上経過した現在でも、重症者や死亡者は増える様子がありません。

東洋経済オンラインより

いままでの経験がさっぱり役に立たないので、誰もが戸惑っているように見えます。しかし、現実のデータを地道に追っていけば、謎は意外とあっさり解けるのではないでしょうか。

ウイルスが何個なら「感染者」なのか

感染者としてカウントされるのは、普通はPCR検査の結果が「陽性」となった人です。では、検査で何個のウイルスが検出されたら陽性と判定されるのでしょう。100個でしょうか、それとも1000個、あるいは1万個なのか…。

正解は、このJ Sato氏のツイートにもあるように、厚労省の基準では「6個」らしいのです。

多くのウイルスは、いったん体内に侵入したら消滅することはありません。たとえ無症状でも、そのままウイルスを保持している人も少なくないのです。たとえば、1996年の調査では、40歳以上の70~95%がヘルペスウイルスを持っているとのことです。*1

そうだとするなら、時間が経過するにつれて、感染者=PCR検査陽性者はどんどん増え続けることになります。

もっとも、本当に新型コロナウイルスが「たった6個」でもPCR検査が陽性になるのか、疑いを持つ人がほとんどでしょう。そこで、この点について複数のソースでチェックしてみました。

日本の新型コロナのPCR検査のやり方には、きちんとした国立感染症研究所のマニュアルが用意されています。

現実のPCR検査で、新型コロナウイルスが何個以上なら検出できるのかは、たとえば日本人の査読前論文(プレプリント)にも書いてあるのですが、

PCR test is sensitive enough to detect 1 to 5 copies of viral genome in a sample
PCR検査は、検体の1~5個のウイルスのゲノムを検出できるほど感度が良い

とあります。

厚労省のサイトにも、上のJ Sato氏のツイートで紹介されていた抗原検査キットの臨床試験の結果があり、

国内臨床検体を用いたRT-PCR法との試験成績(n=72)は、陰性一致率98%(44/45例)、陽性一致率37%(10/27例)であった。陽性検体についての陽性一致率を、RT-PCR法テスト試料中の換算RNAコピー数(推定値)に応じて比較すると、100コピー/テスト以上の検体に対して一致率83%(5/6例)、30コピー/テスト以上の検体に対して一致率50%(6/12例)であった。

と報告されています。

PCR検査が陽性となった検体は27例で、うちウイルス100コピー(個)以上が6例、30コピー(個)以上が12例なので、残りの9例は30コピー(個)未満となります。やはり、PCR検査は「検体の1~5個のウイルスのゲノムを検出できるほど感度が良い」と考えてよさそうです。

多くの感染者が無症状である理由

もっとも、ウイルスが6個の「感染者」なら、ほとんどは何の症状もないと考えていいでしょう。なぜなら、新型コロナと似ているインフルエンザでは、ウイルスが100個以上ないと発症しないとされているからです。*2

前述の陽性となった27例のうち、発症の可能性があるウイルスが100個以上のケースは2割程度(6例)にすぎません。これは、無症状者が多い現実とも見事に一致します。空港検疫でも傾向は同じで、PCR検査陽性者の9割以上が無症状となっています。

話は変わりますが、高橋泰氏へのインタビュー記事「新型コロナ、日本で重症化率・死亡率が低いワケ」には、ウイルスへの暴露率は既に30~45%にまで達していると推定しています。

そしてまた、政府はPCR検査をどんどん拡充していく方針のようです。

こうなると、悪い冗談ですが、日本人の100%全員が無症状で感染し、死亡者がゼロになったときに、やっと新型コロナが収束することになるのかもしれません。

それはともかく、2009年のSARSの例を参考にすると、カラオケなどの「3密」を避ける*2こと、そしてまたマスクを着用する*3*4などの対策で、なんとか収束までしのげるのではないでしょうか。ぜひそう願いたいところです。

*1 もっとも、新型コロナも絶対にそうだとは言えません。なぜなら、きちんとした調査がされていないからです。

*2 緊急寄稿(1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のウイルス学的特徴と感染様式の考察(白木公康)によると、「鼻腔への感染では,127~320TCID50(インフルエンザの場合、PCRで検体を採取する鼻腔には、最低でも100個程度以上のウイルスがない感染は起こらない)」、「2009年の新型インフルエンザ流行の際に医学部生の感染機会を調べた研究によると,多くが「カラオケ」であった」とあります。

*3 新型コロナウイルスや花粉症でのマスク装着に関する日本エアロゾル学会の見解 2020年2月21日掲載 2020年3月26日一部修正

*4 「エアロゾル」感染の証拠認識、WHOが見解