今、家が売れている。まずは下のグラフを見て頂きたい。
注目したいのは赤い実線で示されている首都圏における中古マンションの成約件数の動向だ。4月には前年同月比マイナス52.6%という驚愕の落ち込みを見せた成約件数が、6月度はマイナス11%まで回復している。
現時点の前年同月比ではまだマイナスだが、その復調ぶりはグラフのとおり、まさしく「V字回復」といっていいだろう。
これは中古マンションだけではなく中古戸建の成約件数でも同様で、4月度は前年同月比マイナス41.5%、6月度はマイナス4.9%と、こちらも大幅な回復をみせている。
なぜ家が売れているのか
ただし、上述したV字回復をもって、コロナ禍においても「首都圏の不動産バブルは終わらない」とか「首都圏の不動産は下がらない」などと先走ってはいけない。
今回、住宅の成約件数が伸びた理由の大きな要因は、行動制限の「反動」である可能性が非常に高い。非常事態宣言の発出による4月〜5月にかけての実質的な行動制限は、不動産業界の営業活動にも大きな影響を与えた。ほとんどの不動産会社は営業活動を自粛し、顧客との面談や商談そのものを自ら行わなかった。
その結果、少し変わった現象が起きた。この間の成約数は大幅に減ったものの、広告の問い合わせ数はほとんど減らなかったのだ。大手不動産数社の管理職に聞いたところ、4月〜5月の物件の問い合わせ数は前月比、前年同月比でほとんど変わっていない。
一般的に、どの分野の商品であっても、ネット広告などの問い合わせ数と成約数は相関関係にある。つまり、4月〜5月に家を買いたくても買えなかった住宅購入希望者は家の購入を諦めたわけではなく、その層が6月度に大量に動いた(購入した)可能性が高いのだ。
今後もしばらく首都圏の住宅売買は堅調を維持するだろう。しかし、この「反動」が一段落したとき、市場がどう動くかは全くの未知数だ。
値上がりを期待して買っている?
ネット上や書籍などでは、色々なエコノミストと称される人たちが「家なんか買ってはいけない」という発信をしている。資産としての投資先という観点で考えれば、それらの意見も参考にすべき点は多いが、「地価は将来的に下がるから買うな」という意見は少し的がずれている。
このような主張をする人の共通点は、いま実際に家を買っている人たちの多様な住宅ニーズを全く把握していないというところにある。首都圏かどうかに限らず、確かにキャピタルゲインを期待して家(自宅用)を買う人は一定数いるが、今、首都圏の家を購入している大多数の人たちは値上がりを期待して家を買う(若しくは値下がりを恐れて買わない)のではなく、自身と家族の生活拠点・ライフステージのワンシーンを充実させるために家を買っている。
「不動産は買えば上がる時代は終わった」などという前時代的な戒めは、もう誰にも見向きもされていない。
今、新規住宅取得者は、生活全般にかかる支出の中から住居費に充てるバランスも冷静に見極め、史上稀にみる低金利融資を賢く利用し、さまざまな住宅取得優遇税制を上手に活用している。
住宅ローン減税は、住宅購入の為に金融機関から融資を受けた場合に、毎年末の借入融資残高の1%相当額が所得税から減税(還付)される。※1
現在の民間金融機関の住宅ローン最優遇実行金利は0.6%前後だ。ローン減税の期間(10年〜13年)に限りはあるものの、減税額によっては実質上のマイナス金利状態となる人もいる。
新型コロナの影響にもかかわらず、首都圏で住宅を購入する人が一定数発生し続けるのは、決して値上がりを期待して家を買う人が多いからではなく、住宅ニーズの変化、史上最低金利、住宅取得優遇税制によるものだといえるだろう。
ただ、新型コロナになぞらえるわけではないが、人口減少が続く日本においては、首都圏といえども住宅取得希望者数がいつ「ピークアウト」を迎えてもおかしくない状況ということだけは申し添えておきたい。
※1 各要件によって、制度の利用可否・控除額・期間などに違いがあります。