ベネズエラ大統領、世襲で息子を後継者にと目論む

ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は国家の統治を北朝鮮のように世襲制にしようと試みているようだ。マドゥロが後継者にしようと望んでいるのは彼の一人息子ニコラス・マドゥロ・ゲッラ(40)だ。父親と区別するのに息子は「ニコラシト」という愛称で呼ばれている。

マドゥロ大統領(右、ツイッター)と息子のニコラス氏(Wikipedia)

ニコラシトはマドゥロがアドゥリアナ・ゲッラと1988年に結婚して2年後に生まれた。ところが、1994年にマドゥロは独身だと告白している。ということで、アドゥリアナとは離婚したと思われるが、その後の彼女の消息については一切不明にされている(参照:elcierredigital.com)。

ニコラシトは父親の元で育てられたようだ。一方の父親マドゥロはバスの運転手として勤務したあと政治家ビセンテ・ランヘルの護衛を務めるようになってから政治活動にのめり込むようになった。その時に知り合ったのが現在彼の妻になっているシリア・フレーレスだ。彼女は弁護士でチャベス前大統領の政権下で重鎮の一人だった。

マドゥロはチャベス政権時に外相と副大統領を務めた。チャベスが亡くなる前にマドゥロが後継者として指名されて、2013年に大統領に昇格した。同年マドゥロはシリア・フレーレスと再婚した。

このような政治環境の中で育ったニコラシトが政治の舞台に登場するのはベネズエラ統一社会党の3回目の総会の時であった。この大会でニコラシトは彼が在住する地区の代表として出席したのである。この時に党の役員のひとりに任命された。しかし、この大会ではまたチャベスに忠実だった役員はマドゥロに背を向けたことが明らかになった大会でもあった。

ニコラシトはその後大統領府の特別検査官のチーフに任命された。当時、彼はまだ弱冠23歳であった。ニコラシトは2013年半ばにはボリバリアナ軍事工科大学で経済を修学したことを明らかにした。この大学はチャベスが創設した大学で20万人の学生が修学していると公表されたが、認知度はなく、しかも大統領府が直接コントロールしているということでアカデミー的には疑わしい大学である。

検査官チーフを務めたあと映画学校のコーディネーターに任命された。しかし、映画についての知識は皆無であった。劇作家ホセ・トマス・アンゴラは「マドゥロの息子は映画について何も知らない。唯一知っているのは撮影のカメラを盗むことだ」と述べて、ニコラシトを痛烈に批判した。

ところが、ニコラシトは父親マドゥロ政権でのライバルであり、また軍の麻薬組織カルテル・デ・ロス・ソレスのリーダーディオスダド・カベーリョからの支持を受けた。勿論、それはマドゥロ大統領を牽制してのゴマすりであるのは明白だ。

ニコラシトが後継者としての道を歩む第一歩が2018年に始まった。エル・バーリェ・デ・カラカス地区から議員として選出されたことであった。

また米国が彼に制裁を課した時、議事室で答弁の番になった時にニコラシトは「米国がわが祖国の地を汚すような事態になれば、わが銃がニューヨークまで届き、ホワイトハウスは占拠されることになるであろう」と述べた。

ニコラシトは父親が独裁体制化しつつある国の大統領ということで、父親の権力の延長下で彼の夫人グリセル・トッレスと二人の子供は贅沢三昧の生活を享受しているという。

コロナ危機によるパンデミックにも拘わらず、彼の誕生日に彼らが住んでいる富裕層の高級住宅街で派手なパーティーをやった。それを静粛にやるようにと警察のパトカーが近づこうとしても軍人が彼らの住居を包囲して何もできなかったそうだ。該当する自治体のスーパーバイザー、ハビエル・ゴリーニョがツイートでニコラシトの振る舞いを批判した。それが要因となって彼は現在自宅軟禁を命じられているという(参照:elpais.com)。

2017年の時も彼がある聖体拝礼の儀式のパーティーに出席した時に招待されていた女性リタ・モラレスが携帯で彼の写真を撮った。それに立腹したニコラシトの護衛は彼女の携帯を取り上げるという事件があった。事態はそれだけで終わらなかった。数か月後には彼女と夫は警察に拘束されたのである。

ニコラシトは昨年北朝鮮を訪問している。金正恩から知遇を得るためであった。訪問中に青年共産党の大会に出席した際に、次のように述べた。「北朝鮮の闘いは正当なものだ。いや、それ以上に人道的だ。我が国と同様だ。この訪問は歴史的なものだ。なぜなら貴国から学ぶことができたからだ」と(参照:elcierredigital.com)。

その一方で父親のマドゥロ大統領は議会征服に布石を打つ行動に出ている。12月に総選挙を実施する方向で始動している。しかも、議席数をこれまでの167議席から277議席に増やす計画だ。そうすることによって、現在野党に支配されている議会を覆そうと狙ったものだ。

何しろ、選挙には87の政党が立候補する予定になっている。28政党が国レベルの政党。52の政党は地方レベル。それ以外に先住民による政党などがある。その一方で、彼の支配下にある最高裁でグアイドーの政党大衆意思党を非合法な政党とさせた(参照:infobae.com)。

ということから、仮に12月に選挙となると、マドゥロの息のかかった政党が議会を支配するようになるのはほぼ確実だと見られている。マドゥロ大統領は当初の予想を遥かに超える強か者である。