ボルソナロ政権に嫌気、ブラジルからポルトガルへの移民が急増

白石 和幸

ポルトガルでブラジルからの移民が急増している。それには主に2つの理由があるという。

①ブラジルで暴力が横行し治安の安全に欠けるということ。

②ボルソナロ政権にうんざりしているということ。

Wikipedia

ブラジルからポルトガルへの移民が増え始めたのは2017年からだ。なお、ブラジル人のポルトガルへの移民は2000年頃から始まったという。2011年頃からブラジルが長期の経済低迷に入り、2018年には10万5423人のブラジル人がポルトガルに移住していた。それが2019年には50%増加して15万1304人までになった。但し、ヨーロッパの他の国の国籍をすでに取得しているブラジル人でポルトガルに移住した人はこの統計から除外されている。非公式にはおよそ30万人のブラジル人がポルトガルに在住していると見られている。

また、ブラジル人でポルトガルの国籍取得の希望者も2倍に増えたそうだ。(参照:elpais.comelobservador.com

移民というと生活苦から国外に出るというイメージが良く描かれるが、ブラジルからの移民の特徴は中流階級や上流階級の人も比較的多くいるということだ。

例えば、サンパウロでレストランを経営していたアレクサンドゥレ・サボイアは移民先としてマイアミかリスボンか迷ったそうだ。最終的に安全性と言葉が理由でリスボンを選んだ。ということで、リスボンの郊外にレストランを開設した。

リオデジャネイロで広告業の編集に30年勤めていていたジャスミン・ナルシソは昨年リスボンに移民して来た。移民することについては以前から考えていたそうだ。ボルソナロが大統領に選ばれた時点で、「もうたくさんだ!」と感じて彼女の夫と移民することを決めたそうだ。ポッドキャストを配信して移民したい人の相談に乗っているという。

リオデジャネイロ出身のジャネット・フェレイラは現在リスボンでクリーニング屋で働いている。2018年の大統領選ではボルソナロに投票した。13年間の労働者党の政権にうんざりしていたからだという。また選挙になればボルソナロに投票するそうだ。しかし、暴力で完全に治安が乱れたリオにいるよりも、娘の将来のことを考えてポルトガルに移民した。

リオでは治安の安全が保障されておらず、落ち着いて道を歩くことができない状態になっているという。弁護士でポルトに移民したホセ・エドゥアルド・チャバンスは「リオでは真昼間に銃撃戦が起こることも異常ではなくなっている」と指摘した。しかも、彼はボルソナロ候補には反対していたことから、彼が大統領に選ばれたことで移民することを決心したそうだ。

ポルトの街並み(Art DiTommaso/Flickr)

またブラジルの富裕層がポルトガルに移民することに決めた要因にゴールデン・ビザというのがある。一定額の投資をすればポルトガルでの永住権が取得できるというプランだ。特に、その投資が不動産に向かった。それがリスボンやポルトの土地の値上げを誘うことにもなったが、このゴールデンビザの取得を目当てにブラジルから富裕層がポルトガルに移住した。740人余りの富裕者とその家族がゴールデンビザを取得したという。

それにブラジルの銀行イタウ・ユニバンコやバンコ・ブラデスコが興味を示し、ポルトガルにそれぞれ支店を開設した。

ポルトガル政府にとっても富裕層の移民が増えることは願ってもないことだ。日本と同じようにポルトガルも高齢者が増えていることが一つの悩みの種となっている。例えば、60年代には年金者一人に対して社会保障費を収めている人が12.7人いた。それが今では一人の年金者に対して社会保障費を収めているのはわずか1.6人という厳しい事情を抱えている。

ということもあって、政府がゴールデンビザを発給することにしたのも外国から技能を備えた人や富裕者が移民してくれることを望んでいたからである。(参照:elpais.com

更にポルトガルにとって望ましいのは、ポルトガルの大学で勉強しようとするブラジル人学生が増えていることである。2017年に1万1000人の学生がポルトガルで修学していたのが、2018年には1万8000人まで増加した。特に、米国が外国からの学生の受け入れに障碍を発生させていることから、言語の問題のないポルトガルを選ぶ学生が増えているということなのである。(参照:elobservador.com

ポルトガルはヨーロッパの中の小国ではあるが、同じ地理的そして経済的規模において同等のギリシャと比較してより発展ある過程を歩んでいる。それも嘗てスペインよりも先に世界に布石を築いたという歴史の重みとポルトガル人の実直な国民性に委ねられているように思われる。