統計上、オレたちが野原ひろしになれる割合は◯%しかないという事実

黒坂 岳央

未だにあちこちで言われる「クレヨンしんちゃんの野原ひろしになるのは難しい時代になった」という主張。子供目線では「サラリーマンで、奥さんにこき使われる冴えないお父さん」という見方をしていたが、大人になって社会人になると、いかに野原ひろしの立場を得るのが難しいかを痛感した!という話がある。

「もはや野原ひろしは高望み!」のような議論は個人ブログから、他のメディアまで幅広く取り上げられている。手垢の付きまくったテーマではあるものの、いずれも数字が厳密でなく感情的な主張が多いと感じていた。今回はオレがより厳密に「野原ひろしになる難易度」を算出してみたい。

これが永久保存版になれば幸い。

https://twitter.com/takeokurosaka/status/1292588568666234885

野原ひろしのスペック

下記が野原ひろしのスペックだ。

  • 35
  • ふたば商事勤務の係長
  • 年収650万
  • 身長180cm
  • 既婚で子供二人

「理想的な家庭」と見るかは議論から外すが、事実として彼が築き上げて来たスペックとして保持してきたものは決して小さくないように感じる。1つずつ考察してみよう。

1. 係長…8.7%

厚労省の出した「平成28年賃金構造基本統計調査」によると、何かしら役職を持っている40~50代の割合は15.5%という。現代は「8割は一生ヒラ」の時代というわけだ。この時点で彼はトップ1割に入っていることになる。素直にすごい。

2. 年収650万円…9%

dodaの調査によると、35歳男性の年収中央値は約480万円なのだという。彼はそれより170万円も多く稼いでおり、月収ベースでみれば10万円以上平均を上回っている計算になる。

厚生労働省の平成29年度の賃金構造基本統計調査によると、年収650万円を稼ぐ人は日本の男性は約9%。これは35歳時点で係長になっている割合と同じくらい難しい。

3. 身長180cm…6.5%

2015年3月に公表された文部科学省の統計情報によると、日本人男性で180cmを超える身長の持ち主はたったの6.5%しかいない。これを読んでいるあなたの周囲にも、180cm以上の男性は少数派のはずだ。

4. 既婚…62.5%

国勢調査(2015年)によると、既婚で子持ちの日本人は62.5%いるらしい。ただ、今後は生涯未婚率が高まることで、この数字はかなり下がることが予想される。

野原ひろしになれる割合は0.03%

他にも、「足が臭い」とか「ヒゲの濃さ」とか「お小遣い」などのステータスがある彼だが、マイナス要素になり得るため考慮には入れていない。

さて、若者が野原ひろしのスペックにたどり着けるか?係長になる時点でメチャメチャハードルが高いので、「天文学的な数字が出ないだろうか」と震える手でExcelに割合を入れて数字を出してみた。

0.03% = 8.7% × 9% × 6.5% × 62.5%

まさに恐ろしい数字となった。35歳時点で係長へ昇進し、年収を650万円稼ぎ、180cmの高身長に恵まれ、既婚者である人物は0.03%しかいないのだ。

こんなことをいうと、「野原ひろしがハイスペックに思えるほど、日本は落ちぶれた」という主張が出そうだ。しかし、それは「年収」や「既婚率」という要素しか見ていない主張だと思う。確かにバブル期に比べれば、年収や既婚率は統計データ上おているが、昔から商社の係長になる人は今ほど多くなかっただろうし、身長も180cmを超える人物は稀だ。

つまり、野原ひろしはそもそも、かなり望ましいスペックを持った男なのである。国民的アニメで頼りないところもあるけど、憎めないというポジションであるためにそう思えないだけで、数字は毅然と彼のステータスの高さを物語っている。

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望ましいスペックを揃えると希少性が一気に高まる

人が羨むスペックは様々だが、複数をすべて揃えようと思うといきなり難易度はブチ上がる。

年収650万円を実現させるだけなら、実は今の時代でも非常に簡単だ。土日にのんびりする時間をすべて、コンビニバイトに置き換えれば年収650万円は一気にハードルが下がる。まあ、今の時代は本業のスキルをクラウドで売って稼ぐのが理想とされる時代だろうが。

係長以上の役職だって、稼いでいけるかどうかを一切無視して起業すれば一瞬で代表取締役社長になれる。

結婚も同じで、愛せるか、結婚生活を持続可能かを考慮せず、とりあえず結婚してくれる相手を見つけるのは難しくないだろう。

だが、継続可能性と複数の条件を満たそうとすると、いきなり話は難しくなる。それぞれの要素の割合を掛け算して、さらにそれを持続させなければならないからだ。

お小遣いが少ないと不満を訴え、家族に「足が臭いゾ」と言われながらもこれだけのスペックを維持する野原ひろしは、素直にすごいのだ。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。