スペイン前国王の悲しき出国

2020年08月27日 06:00

ファン・カルロス1世(公式写真)

今月3日午後、スペインのメディアでファン・カルロス1世前国王(82)が離国を決定したことがメディアで一斉に取り上げられた。いずれはそうなる運命にあるというのはすでに6月頃から予測されていた。

その発端となったのは次のようなことが理由からだ。

①今年3月頃から前国王がスイスに二つの隠し口座を2008年に開設して、その一つにサウジアラビアの当時の国王から1億ドルが送金されていたことやバーレン国から190万ドルを受け取ってそれを前国王が自らキャッシュで持参して入金させたことなどが明るみになった。これらはファン・カルロスがまだ国王の時であった。

前述1億ドルはスペインがサウジで受注した高速列車の建設に仲介したことへのコミッションだとスイスの検察は判断している。が、実際にこの受注が決定したのは送金があってから3年後のことだということでこの推測は些か無理な感もする。

②それ以外にもサウジアラビア、アラブ首長国連邦、モロッコからマンションや広大な土地なども贈られたが、その大半は国へ寄贈した。勿論、前国王が売却したものもある。

③前国王の金儲けに勤しむ姿を批判して愛人のコリーナの発言が密かに録音されていたテープには「ファン・カルロスは(前国王の住居)サルスエラ宮殿に紙幣を数える機器を持っている」と発言したりした。この録音を密かに行ったのは元警察署長で汚職などの罪で現在収監されている。

④愛人コリーナと彼の息子と前夫を同伴して像狩りをして腰を痛め急遽マドリードの病院に搬送されたことからこの冒険が明るみになった。国の経済が低迷していた時のことで国民からより一層反感を買った。

⑤国王はこの時にテレビ画面を通して国民に「二度とこのような過ちは犯さない」と謝罪した。しかし、その後も隠し口座から資金を引き出したり、最後は同愛人に6500万ユーロ(78億円)をこれまでいろいろと世話になったお礼だとして送金することまでした。これだけの資金を国王はどこから手に入れたのかという不審が高まった。

これらのスキャンダルが今年3月からメディアで機会あるごとに報道された。それは前国王の民主化への多大の貢献をしたイメージの失墜につながった。

また、これらのスキャンダがなければ、ファン・カルロスは名君としてスペインの歴史のページを飾っていたはずである。

この一連のスキャンダルが起こる前には、ファン・カルロスの娘婿の公金横領事件もあって、立憲君主制という政治制度に国民の間で、特に若い世代で疑問が持たれるようになっている。それを一掃させるべく、ファン・カルロスは王位を息子のフェリペ王子に譲位してフェリペ6世として王位に就いた。新国王の誠実な人柄が国民の間で信頼を取り戻し王家への支持が再び上昇した感もしている。

ファン・カルロス(右)とフェリペ6世(スペイン王室サイトより)

しかし、1980年代から90年代中頃までの70%を超える王家への支持率まで戻ることはもう二度とないであろう。

ファン・カルロス前国王のスキャンダルがメディアで盛んに取り上げられるようになってから共和制の支持者がそれを利用して君主制の廃止を主張するようになった。しかも悪いことに、現政権は社会労働党とポデモスの連立政権であるが、ポデモスはもともと共和制の支持政党であり、政権に就いているにもかかわらず君主制の廃止を訴えたのである。

ヨーロッパで君主制が施行されているどの国でも複数政党による連立政権では王家の存在を否定する政権は皆無である。唯一、その例外はスペインだけだ。社会労働党の内部には政権を担っておりながら王家の存在を否定しようとするポデモスの姿勢を強く批判する議員もいる。

このような事情下にあって、これ以上王家のイメージが傷つくことを恐れた前国王は出国するのを決めたのだった。

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貿易コンサルタント、国際政治外交研究家

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