スペインの首相官邸とその敷地内のレストラン、バル・カフェテリアに25年勤務していたアンヘル・パラシノが今月スペイン電子紙『エル・コンフィデンシアル』の取材に
「首相はそこで執務しているのだ。あそこ(首相官邸敷地内の他の建物も含む)には38人が給料を貰うことなく勤務していたのだ。(首相も解決のための手を差し伸べてくれなかった)まったく理解できない。職の安定化だって、何を言っているのだ? 我々は一銭も貰うことなくそこで勤務していたのだ」
と語った。
パラシノが取材に答えた内容を少し説明する必要がある。スペインの首相官邸は一般にモンクロア宮殿と呼ばれ、その敷地内には副首相官邸や内閣官房庁の建物もある。そこのレストランとバル・カフェテリアは民間業者に委託し、入札で決められる。
ところが、昨年末、2年前から入っていた民間業者ドゥルシネア・ヌトゥリシオンが契約内容を十分に満たしていないとして官房庁から契約を解約された。臨時で業務委託を受けた業者が古参の従業員の雇用を拒否したため、パラシノら38人は完全に失業した。
実はこの給与未払いは昨年から始まっており、パラシノら従業員は昨年6月から数度ストライキを行った。それでも給与が支払われなかったため、業者と官房庁を相手取り、マドリードの高裁に提訴。その結果、今年6月、高裁は、業者ではなく、官房庁が未払い給与を負担すること、並びに再雇用を義務付ける判決を下した。
勤務していた従業員の多くは、委託業者が代わっても勤務を続けて来た。パラシノは25年間首相官邸で給仕として勤務しており、首相官邸の主である首相よりも古株ということになる。
2年前から給与面で遅延が目立つようになったが、彼らは首相にその不満を伝えることなく黙々と官邸内で勤務していたということだ。勿論、ラホイ前首相そしてサンチェス首相が彼らが抱えている問題を知らないはずはない。
首相は雇用問題に熱心に取り組んでいるにもかかわらず、同じ建物内で勤務している彼らの給与については無視。一向に解決しない状態が続いていた。官房庁によれば、給与の問題はそこに入っている民間業者の責任であって、首相官邸の責任ではないと主張。
しかし、38人の委託された民間業者の従業員が給与を貰わずに働いていたという事実がありながら、これまで首相が如何なる解決も試みなかったというのは、薄情で怠慢でしかない。それが前首相の時から続いていたということなのである。
このような事態が世界で公になれば、スペインの首相の恥をさらすようなものだ。スペインでも今まで広く知られることはなかった。
今回の判決で彼らの再雇用が保証された。しかし、コロナによるパンデミックでいつから勤務に復帰できるのか、まだ具体的になっていないそうだ。