文部科学省は9月1日、教員の長時間労働を是正するために、中学・高校の部活動について、休日の指導を学校管理下から外し地域活動に移す案を示しました。
まだ具体的な詰めの段階ではないようですが、記事を読んだ限りにおいても、特に部活動を担当する教員には、多くの疑問や不安が浮かんできたはずです。すでに毎日新聞には、不安視している教員の様々な声が掲載されています。
休日の部活動の地域移管 教員、教委ら戸惑い「中途半端」(毎日新聞)
このままでは過去の失敗を繰り返す恐れがありますので、部活指導者の一人として、今後危惧される問題について、以下6点ほど指摘しておきたいと思います。
- 平日の部活指導教員と休日の指導員の連携はどこまでできるのだろうか?
ア.指導方針の違いが明らかな場合、さらには権威ある外部指導者の場合、教員はどう対応したらよいか?
イ.教員が休日の大会・試合に引率せずに部員との信頼関係は保てるのか?
ウ.ア・イの不安から、休日だけ割切って休める教員が一体どれだけいるか? - 活動中の怪我や治療は原則保険で対応できるだろうが、指導員に指導上管理上の問題があった場合、部顧問による対処や学校の管理責任が求められないか?
- 教員の給特法は廃止・大改定しないのか? 廃止しなければ平日の部活指導超過勤務は今まで同様サービス残業になる?
- 中体連・高体連の今後の在り方・運営はどうするのか?これまで通り学校対抗の公式試合なら、休日教員が勤務しなければ大会運営・主催は誰がするのか?学校対抗では生徒・保護者・学校の熱も入りやすく、外部指導員への過度な期待や重圧が、勝利至上主義による行き過ぎた指導(体罰等)を生まないか?
- そもそも部活指導は教員の正式な職務なのかそうでないのか? 文科省による「部活動は必ずしも教員が担う必要のない業務」「休日の部活動を希望しない教員は指導に携わらなくてもよい」というあいまいな位置づけは、結局教員の善意に甘える構造ではないのか?
上記4の中体連・高体連公式大会が踏襲されるなら、生徒は学校代表であるから当然引率教員は必要であり、本来部顧問を正式な職務に位置付けなければ整合性が取れない。また当日の管理責任だけでなく、平日きちんと指導している部顧問が、生徒にとって最も大切な土日の(公式)試合に引率をしないなど心情的にできるのか? つまり平日部活指導(サービス残業)をしている教員ほど、休日の部活指導を希望する可能性は高いはずである。 - 5に関連して部活指導を正式な職務とし、休日勤務の振替休日を平日に取得できる体制は整えないのか?教員を思い切って増員し、平日に振替休日をとる教員の授業等を十分カバーできれば、かなり残業手当(現在の特殊勤務手当)を減らせるはず。
要するに、「給特法」(時間外・休日勤務手当を支給しない代わりに、給与月額の4%に相当する教職調整額を支給することを定めた法律)の廃止を検討することなく、教員のサービス残業を放置し、部活指導が正式な職務かどうかの位置づけをあいまいにしたまま、休日の部活指導の負担軽減を行ったところで、根本的に勤務全体の負担軽減にはなりませんし、上記のようにそもそも効果自体も極めて怪しいのです。
国(文科省)が本心から教員の負担軽減を考えるのなら、もっと学校現場に足を運び教員の生の声を聴いたうえで、部活動の在り方そのもの(将来的にはリンク先記事の長沼教授案のように同好会的な活動とするのか、正式な教育課程の学校活動に位置付けた部活動とするのか)にメスを入れ、明確な方針を打ち出さなければ、教員の部活指導の扱いも宙ぶらりんのまま、お茶を濁した形だけの施策に終わってしまうのではないでしょうか?
とにかく、この先文科省がどのような具体案を提示してくるのか、注視していきたいと思います。