コロナ禍は契約変更や破棄の理由になるか?

私たちが子供たちに教えるべき最も大切なことは、「約束を守る」ことだ。
実際、幼稚園受験や小学受験、はたまた中学受験などでは「約束が守れる子供」なのかどうかが重視されている。

「契約は守らなければならない」という大原則もそれと同じだ。
締結した契約を一方的に破棄することがまかり通れば、経済だけでなく社会生活も大混乱を来す。

ただ、契約の履行を強制するのが極めて酷な場合は、「事情変更の原則」という例外がある。例えば、月10万円、期間5年で店舗を貸したところ、想定外のインフレが起こって周辺の同種物件の賃料が50万円に跳ね上がったようなとき、賃貸人は法に基づいて家賃増額請求ができる。

これも「事情変更の原則」の一環だ。

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では、今回のコロナ禍で、賃貸借契約どおりの賃料を払うことができなくなった飲食店が賃貸人に対して賃料減額請求ができるだろうか?おそらく、ほとんどのケースでは「権利」として認められることはないだろう。退去するという選択肢が残されているからだ。

どうしても賃料を減額してもらいたい飲食店は、賃貸人に対して誠心誠意お願いするしかない。
「払えないものは払えない」と開き直ったり、自己都合だけを述べた一方的な通知を出したりするのは逆効果だ。

レベルの低い弁護士の中には、「事情が事情なのだから減額するのが当然だ」と言わんばかりの通知を作成し、賃貸人を怒らせて関係をこじらせてしまう者もいると聞く。社会経験が乏しく、顧客に頭を下げた経験がないのだろう。

拙著「説得の戦略」で述べたように、人間は感情の動物だ。
理屈だけでは決して人を動かすことはできない。

ましてや、理屈として難しい場面で相手の感情を害することをするのは「逆鱗に触れる」ことになり、大きな代償を支払う結果になるかもしれない。「周りもやっている」と安易に考えることなく、相手の感情に十分配慮しつつ慎重に事を進める必要がある。


編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2020年9月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。