大坂選手と人権問題:まずは関心を持ち自分で考える

大坂なおみ選手が全米オープンで優勝しました。
アスリートとして、人としても実に立派だなと私は感じました。

全米オープンは2年ぶり2度目の優勝ですが、その偉業と共に私は人としての姿に心打たれました。それは7枚のマスクです。黒人が警察官に殺されるというような事件、これアメリカでは今に始まったことではありませんが、この7枚のマスクはアメリカの人種差別はもとより、人種差別に対する大坂選手のアクションでした。

新型コロナウイルスの影響により無観客で行われた今回の大会、会場への入退場の際に大坂選手はマスクを着用していました。7枚という枚数は、決勝まで戦った際の試合数となっており、そのマスクには不当に殺された黒人の名前、「Breonna Taylor」「Elijah McClain」「Ahmaud Arbery」「Trayvon Martin」「George Floyd」「Philando Castile」「Tamir Rice」がそれぞれに書かれていました。

8月にアメリカで行われたの全米オープンの前哨戦ともいえるウエスタン・アンド・サザン・オープン。この期間中にもまた警官が黒人男性を背後から拳銃で撃って死亡させるという事件がありました。この事件を受けて、大坂選手は事件に対する抗議として、準決勝の棄権を一時表明しました。その時大坂選手は「私のテニスを見てもらうよりも、いまは注目しなければいけない大切な問題があります」とコメントしています。

「スポーツに政治を持ち込むな」という批判は日本でもアメリカでもあがりましたけれども、大坂選手は「これは人権問題だ」と言い切ったんですね。すなわち政治を超えているというかよむしろ、思想的意味を含む政治よりも基本中の基本だということでしょうね。人間生まれながらに有している自然権であって、是非を問うものではなく、基本的な問題なんだということです。

全米にデモが広がるきっかけとなった、ミネソタ州で5月に発生した警察官が黒人男性の首を地面に押さえつけて死亡させるという事件。事件の4日後に大坂選手は「自らの身に起きていないからといって、それが起きていないと言うことではない」とコメントしています。私は、経済、貧困・教育環境・治安・まちづくりなど、様々なことに同じことが言えると思います。

それにしても勝負の世界ですから、7枚のマスクを用意しても全部使えないこともあるでしょう。しかし、全部使えなかったとしても私は立派なことだと思います。しかし、結果として7枚のマスクを全部使い切ったことも、奇跡だとも感じますし、本当に大坂選手の強い意志を感じます。

私が今回、一番心を打たれたことは、全米オープン優勝直後の優勝者インタビューで、インタビュアーから「7枚のマスクでどんなメッセージを伝えたかったのか」と聞かれて、大坂選手がこう答えました。「あなたがどんなメッセージを受け取ったのか。それの方がもっと大事です。私はみんなに話を始めてもらうことが重要だと、そんな風に感じています」と答えた大坂選手をテレビで見ていて思わず「そうだ」と私はつぶやきました。こんな重たい言葉を一言で簡略するのも申し訳ないんですけれども、「みんな考えようよ」っていうことですね。

仕方がないとか、世の中そんなものだとか、それが現実だとか、どうせ変わらないとか、今はそれどころじゃないんとか、そうではなく、まずは関心を持とうよということですよね。みんなでデモに参加しようというような話ではなくて、まずは関心を持って自分の頭で考えよう。私もそのためにYouTubeやブログで発信しているんです。


編集部より:この記事は、前横浜市長、元衆議院議員の中田宏氏の公式ブログ 2020年9月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。