コロナ下で進展するeスポーツ

コロナ巣ごもりで、ほとんどの業界がダメージを受ける中、特需に沸く業界もあります。マスク、トイレットペーパー、コンビニ、デジタル教材、eコマース。

eスポーツもその一つになる予感があります。予感、というのは、まだ数字として明確ではないからですが、現状の認識をメモしておきます。

eスポーツ。遠隔でも対戦できる競技。コロナ禍の状況であってもハードルが低く大会開催も可能です。

ゲームは人と物理的に接触することなく、他の人とコミュニケーションを生む娯楽なので、コロナにうってつけ。巣ごもりストレス解消。

だから、WHO のアンバサダーも今ゲームをすることを推奨してるわけです。
https://www.gamespark.jp/article/2020/03/30/97935.html

日本のライブ配信は、COVID-19が指定感染症と告知されてからから2ヶ月で視聴時間が44%上昇したというデータがあります。ゲームを見る人が増えているデータもあり、グローバルでもリリースして長く経った作品がより人気になっている追い風が観測されています。
https://www.giken.tv/news/cov-mw

無論eスポーツの世界でもリアルイベントの果たす役割は大きい。予選大会をオンラインで開催し、決勝はオフラインで開催するという例も多い。しかし今回、完全オンラインでも費用を抑えて十分に魅力的な大会、イベントを開けることがわかってきました。
世界有数の大会「Intel Extreme Masters Katowice 2020」は無観客で実施されましたが、過去最高の同時接続数を記録しました。プレイヤーにとって今は我慢ではなく、鍛錬・成長の時期で、力を蓄えたプレイヤーが次に活躍すると見られています。
https://www.negitaku.org/news/n-23954

いま注目が集まっているのは、既存のスポーツが代替策としてeスポーツを活用していること。

米バスケットNBAは「NBA 2K20」でケビン・デュラント、トレイ・ヤング、八村塁らトッププレイヤーが参加してゲームの腕を披露するトーナメントを開催。

モータースポーツが中止・延期となる中で開催された「F1バーチャルグランプリ」にはマクラーレンのランド・ノリスら現役F1ドライバーも参加。4月5日の「バーチャル・オーストラリアGP」ではフェラーリのシャルル・ルクレールが初参加し、いきなり優勝を飾りました。

プロテニス「ムチュア・マドリード・オープン」はゲーム「Tennis World Tour」のeスポーツ大会を開催し、ラファエル・ナダルら現役プレイヤーが参加します。

リアルスポーツの大会が中止になる中で、eスポーツを通じてスポーツの醍醐味、楽しさを伝えている。面白い試みです。

スポーツ業界が「eSports いける」と見定めて直接歩み寄って来た。新しい動きです。

リアルスポーツから見ると、普段スポーツに触れていない若い層にもアピールできる機会。eスポーツから見れば、リアルスポーツファンにeスポーツを見てもらえる機会。まさにシナジー。

日本eスポーツ連合JeSUが経産省の委託を受けてまとめた報告書では、直接市場の目標を2025年に現在の16倍、700億円としています。しかし今回、eスポーツでもオフラインのイベントが実施できないことによる影響は大きい。ダメージはあります。

同時に、香川県がゲームの利用時間などの目安を盛り込んだ条例を施行するなど批判もあります。そもそもeスポーツはスポーツなのかとの声もあります。成長が期待される一方、悩みも抱えています。eスポーツの意義を見据えつつ、長期的な成長策が必要です。

IOCはeスポーツ検討会(ELG)で五輪の公式競技化に向けて議論しています。eスポーツ団体としては英・韓と並びJeSUが日本を代表して参加。ELGは2019年12月、IOCサミットにeスポーツの推奨案を提出しました。
https://www.olympic.org/news/declaration-of-the-8th-olympic-summit

経産省・JeSUの報告書は、eスポーツの社会的な意義に鑑み「各学校や大学・専門学校等の教育関係者、教育分野に係る研究者、教育委員会を含めた関係行政機関など様々な者との連携協力を土台に、一丸となった活動を今後展開していく必要がある」と提言しています。

この提言を具体化するため、JeSU、超教育協会、iUが「超eスポーツ学校」を開設しました。eスポーツの教育への導入に関心を持つ大学から小学校までの学校と有識者・研究者によるコミュニティを形成し、共同カリキュラムの提供やeスポーツの教育的効果に関する調査研究などを行う方針です。

同時に、JeSU、コンピュータエンターテインメント協会(CESA)、日本オンラインゲーム協会(JOGA)、モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)は「4 団体合同検討会」を設置し、実態把握のための調査・研究などを推進。業界、マジメです。
https://jesu.or.jp/contents/news/news-200310/

コロナは不幸なできごとですが、eスポーツの魅力や可能性を認識する機会ともなります。eスポーツは参加型コミュニケーションの娯楽であり、今後大切になる能力を育む教育効果を持ちます。

ゲーム大国でありながらeスポーツ途上国だった日本は、産業としても文化としても健全な育成を進め、eスポーツ大国になっていくことを期待します。

同時に今年は5Gがスタート。eスポーツも次のステージに進むことが予測されます。これはコロナと同様、世界同時進行のドライブであり、この環境変化をどう活かすかがポイント。

一年延びたオリンピック、5年後の大阪万博といったチャンスも活かして成長を促したい。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2020年9月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。