民主党亜流野党の立憲民主党/仁義なき永田町の論理

藤原 かずえ

2020年9月15日、新しい立憲民主党が結党しました。翌16日、枝野幸男代表は菅義偉政権に対し次のように述べて対決姿勢を強めました。

産経新聞 2020/09/16 [記事]
立憲民主党の枝野幸男代表は16日、同日発足する菅義偉内閣について「大変遺憾ながら「安倍晋三亜流政権」「安倍亜流内閣」と申し上げざるを得ない」と述べた。

政権が幕を閉じるときに朝日新聞の調査で国民の71%が支持した安倍政権の政策を菅政権が継承することは、むしろ国民に意向に寄り添った民主的判断であり、そのことを揶揄する枝野代表は悪口を言うだけの思考停止に陥っていると言えます。

そもそも、新しい立憲民主党のほとんどの構成議員は、史上最悪という酷評を受けている民主党に所属していた議員であり、現在でも政権の失敗をその稚拙な政策に求めることなく「代表を皆で支えるができなかった(岡田克也氏)」「後ろから仲間が鉄砲を撃って引きずり下ろす党風(蓮舫氏)」という仲間割れに求めています。

また、その執行部には「悪夢の民主党政権」の呼び名を不動のものにした菅直人政権の中心メンバーがずらりと名前を連ねています。もしも枝野代表が、菅義偉内閣を「安倍晋三亜流政権」「安倍亜流内閣」と呼ばざるを得ないのであれば、当然のことながら、同時に新・立憲民主党を「民主党亜流野党」、その執行部を「菅直人亜流執行部」と自ら呼ばざるを得ないものと考えます。

永田町の権力ゲームと数合わせ

2017年10月24日の旧・立憲民主党の両院議員総会で枝野幸男氏は次のように述べています。

枝野幸男氏:永田町の内側の権力ゲームに右往左往するのではなくて、あくまでも国民の側を向いて、国民のみなさんとともに歩むと。やはり永田町の内側の数合わせ、権力ゲームに我々もコミットしていると誤解をされれば、今回いただいた期待はあっという間にどこかに行ってしまうと思っておりますので。

ところが、今回の野党再編劇は、紛れもない国民無視の永田町の内側の数合わせ・権力ゲームでした。民主党政権時に消費税をめぐり大喧嘩した枝野幸男氏(旧立憲民主党)、野田佳彦氏(無所属の会)、小沢一郎氏(旧国民民主党)が、精緻な政策合意もなく、当たり障りのない緩い[綱領]を目くらましにして、選挙互助会としてチャッカリ野合することになったのです。

仁義なき紆余曲折

次の図は、民主党のメインストリームを受け継いだ民進党が解体して現在に至るまでの経路を描いたものです。頭がクラクラするくらい複雑怪奇な離合集散プロセスであるため、途中で何度もこの図の完成を諦めようと思いましたが、このおぞましい紆余曲折の実態を把握したいという知的好奇心を推進力に何とか粘って完成にこぎつけました(笑)

ここで、彼らが展開した「紆余曲折の数合わせの権力ゲーム」を簡単にまとめておきます。

まずは、民主党政権時に消費増税賛成の民主党主流派と消費増税反対の小沢一郎氏率いる小沢派が大喧嘩、小沢派が民主党を離党して新政党「国民の生活が第一」を立ち上げました。その後、民主党は政権を下野し「維新の党」と合流して「民進党」を創りました。

民進党の代表は岡田克也氏・蓮舫氏が歴任しましたが、安倍政権の人格攻撃に明け暮れる政党の体質を国民が見限って存亡の危機を迎えました。すると、党内保守派が民進党を離党して小池百合子都知事とともに「希望の党」を設立しました。2017年解散総選挙を目前にして「希望の党」が大人気の中、もう党の将来はないと考えた前原誠司新代表は、民進党の議員全員を希望の党に入党させてもらう方針を決定しましたが、小池都知事は政策が合致しない政治家を「排除する」という方針を出しました。

この時に排除されることが確実視されたのは、安保法制に反対する革新系議員と煙たい存在の重鎮議員です。そこで、選挙互助会として革新系議員によって創設されたのが「立憲民主党」であり、重鎮議員によって創設されたのが「無所属の会」なる会派です。

そんな中、小池都知事の排除発言で希望の党の人気は一気に凋落してしまいました。すると、人気目当てで小池都知事にゴマをすって希望の党に入党させてもらった小川淳也氏や柚木道義氏は露骨に小池都知事に反旗を翻しました。2018年に希望の党が崩壊すると、無所属を選択した長島昭久氏・細野豪志氏・小川淳也氏・大串博志氏・松原仁氏らを除く希望の党の大部分の議員は民進党を母体として創設された「国民民主党」に合流することになりました。

それも束の間、立憲民主党と比較して国民民主党の支持率が上がらないことを見定めた柚木道義氏・山井和則氏・今井雅人氏といった「アベガ~議員」は、国民民主党を離党して立憲民主党にすり寄っていきました。政策など関係なしに左右に縦横無尽に瞬間移動する、見るもおぞましき仁義なき裏切り行為が露骨に展開されたのです(笑)

2019年になると、今度は無所属の会のメンバーや希望の党・国民民主党を離党して無所属となっていた議員が、立憲民主党会派に入れてもらいました。一方で、民主党を離党して長いこと少数政党に甘んじていた小沢一郎氏の自由党が国民民主党と合併しました。この後、たちまち立憲民主党と国民民主党の合流話が活発になっていきます。

素直に考えれば、国民民主党の豊富な政治資金に目をつけた仕手筋が党に入り込み、その潤沢な資金を背景に自分に有利な形で立憲民主党との合流話を進めたというシナリオを想像することができます。これはあくまで私の邪推ですが(笑)

このような立憲民主党拡大の流れに反して、政策本位の議員に生まれ変わった山尾志桜里氏は立憲民主党を離党して国民民主党に入党しました。また、立憲民主党の青山雅幸氏・初鹿明博氏・高井崇志氏は下半身スキャンダルによって泣く泣く立憲民主党を離党しました。なお、希望の党が解党された後に無所属であった保守派の長島昭久氏・細野豪志氏は自民党の二階派入りを果たしました。

最終的に、立憲民主党と国民民主党は合併し、新・立憲民主党が結党されましたが、実際には立憲民主党による吸収合併の色合いが強かったと言えます。結局、民主党時代から仁義なき紆余曲折を通して何が起こったかと言えば、次式で示される非常に単純なケミストリーが生じたに過ぎません。

民主党=立憲民主党150議員+国民民主党15議員+二階派2議員+下半身議員

旧民主党議員は有権者を混乱させながら、たったこれだけの再編のために利己的な駆け引きを延々と続けてきたと言えます。唯一の変化と言えば、この再編によって立憲民主党の左傾化がさらに進み、共産党と手を組むことも十分にあり得る状況になったということです。

立憲民主党役員人事

マスメディアは全く指摘しませんが、新・立憲民主党の役員人事は派閥均衡型に他なりません。菅直人内閣という震災対応失敗政権の色合いを強く持ついつものメンバーで構成されています。タイムスリップを起こしたような感覚に見舞われます。

安定のブーメラン炸裂

枝野代表は「政治家が自助と言ってはいけない」として、菅義偉首相が打ち出した「自助・共助・公助」政策を批判し、そのことを与野党の対立軸に設定しました。

合流新党代表選討論会 2020/09/09
枝野幸男代表:政治家が自助と言ってはいけない。政治家の責任放棄であると思っています。政治は自助ではどうにもならない、あるいは共助ではどうにもならない時がどなたでも人生の中に必ずある。その自助や共助ではどうにもならない時のために政治がある。政治の役割は公助なんです。この控除を最後に持ってくるとか、自助と並べること自体が私達とは明確に政治姿勢が違う。わかりやすくなったと思っています。

 

報道ステーション 2020/09/10
枝野幸男新代表:特に今、有力とされている菅氏から「自助」と言っていただいて、非常にわかりやすくなったと思います。「自助」、自分の力だけでできない時のために政治があるんだと。政治は自助とか共助とかいうのではなく「公助」、支えあう社会のための仕組みをどう作るのか、その機能する政府を作るというのが我々の方針であって、自己責任とか、過度な競争とか、まぁ競争すればよくなるんだみたいな新自由主義的な方向性とは明確に違う。

このように勇ましく政府との対立軸を設定した枝野代表ですが、実は枝野代表本人が過去に「自助」を促す発言を国会で繰り返していました。

社会保障制度改革に関する両院合同会議 2005/06/30
枝野幸男議員:つまり、最低限のところは、個人のリスク分散としての年金制度をちゃんと自分で持って、そして将来の生活の最低限の安定をしてください、それでも足りない人たちがいる部分については税できちっと支えましょうよ、こういう話になっていくのが負担をする側からいって納得できる仕組みではないのか。特に、社会としての安定ということを考えたときには、やはり低所得者層がある程度自助努力的な、つまり保険方式、保険概念に基づく年金を持っているにもかかわらず、それでは少ないから何とかしましょうよという、補うという概念でなければ、備えてきた人、資産を持っている人、高所得の人からすればとても納得できない。

 

社会保障制度改革に関する両院合同会議 2005/07/29
枝野幸男議員:生活保護のかわりを年金にさせるのではないか、私はそれでいいんではないか。つまり、生活保護という仕組みは、本来は、なければない方が望ましい制度なんだ。まさに自助、共助、公助であって、本来は、各個人が自分の責任と自分の努力で生きていければ一番いいんだけれども、ところが、人間社会というのは必ずしもそうはできない。そうした中でお互いの助け合いという共助の仕組みがある。そして、そういうやり方の中でもどうしても救えないケースが出てくるからこそ、最後のベースとしての生活保護が存在をしているのであって、できるならば自助と共助の世界の中で、生活保護という仕組みを受ける人がいなくなる社会が我々の目指すべき社会なのではないか、私はそういうふうに思っています。

自ら先頭に立って所属議員の得意技であるブーメランの模範演技を見せたことは、ある意味、党を代表するリーダーとしての資質を十分に示したと言えます(笑)

くすぶり続ける火種

小沢一郎氏は、菅直人首相および枝野幸男官房長官ならびに野田佳彦首相が掲げた消費増税に大反対して民主党を離党しました。民進党の多くの議員は、小池都知事に排除された左翼議員ならびに民進党重鎮を見事に見捨てて希望の党に入党しました。さらに、希望の党・国民民主党の一部議員は自党に人気が出ないと見るや、今度は国民民主党を裏切って立憲民主党にすり寄りました。

新・立憲民主党はこのような仁義なき抗争と非情な裏切り劇を繰り広げた者同士が一堂に会した野合の党であると言えます。実態は選挙互助会であるこの「何でも反対野党」がどのような末路を迎えるのか、今後もしっかりウォッチングを続けたいと思います。