新規感染者が爆発的に増加する欧州

長谷川 良

世界保健機関(WHO)のハンス・クルーゲ欧州事務局長は17日、記者会見で「欧州で過去2週間、大半の国で新型ウイルスの新規感染者が急増した」と指摘、警告を発した。ただし、死者数と入院患者数はスペインとフランス両国以外は増えていない。以下、オーストリア通信(APA)の記事をもとにまとめる。

過去2週間の人口10万人当たりの欧州の新規感染者数の色分け図(出典:欧州疫病予防管理センター(ECDC)の公式サイトから)

中欧のチェコで新型コロナウイルスの新規感染者が急増、この状況が続けば今年3月と同様、緊急事態宣言が発布される。アダム・ボイテック保健相が20日、発表した。人口1070万人の同国の新規感染者数は週末、2046人と前日より微減したが、週末は通常新型コロナ検査件数が少ないわりには最多だ。

同国の累計感染者数は4万8306人。過去2週間、チェコはスぺイン、フランス両国に次いで感染者数は多い。同国では3月13日から5月中旬にかけ緊急事態状況だった。観光シーズンに入り一時緩和されてきた規制がここにきて再び強化されてきた。今月10日には公共関連施設、運輸機関でのマスク着用義務が再導入されたばかりだ。

同国外務省は国民に不要不急な旅行はしないように通達している。ただし、欧州連合(EU)やシェンゲン協定国からのチェコ入国は依然、新型コロナ検査や入国理由を提示しなくても可能だ。

英国でも新型コロナ感染者の増加を受け、規制強化に乗り出してきた。人口6670万人の同国では2度目のロックダウン(都市封鎖)が実施される可能性が高まってきた。マット・ハンコック保健相は20日、BBCとのインタビューで、「国民が新型コロナ感染規制を遵守すれば2度目のロックダウンを回避できる。しかし、必要ならば、第2のロックダウンを実施しなければならなくなる」と述べ、国民に規制遵守を訴えている。

同国で20日、3899人の新規感染者が出て、19日は4422人だった。その数字は5月8日以来の最多値だ。ハンコック保健相は、「わが国は分岐点に立っている。その選択権は国民の手にある」と強調している。

ボリス・ジョンソン首相は隔離期間の遵守などを守らない国民には厳格な刑罰を下すと発表。具体的には9月末から、新型コロナ規制を繰返し守らない国民に対しては最高1万0900ユーロの罰金刑とするという。同首相は、「政府は与えられたすべての権限を駆使しても新型コロナ感染の拡大を阻止する」と決意を表明している。パブの営業時間の制限や私的な集まりへの人数制限などの導入が考えられている。

米ジョンソン・ホプキンス大学の集計によると、フランスでは新型コロナ感染者の累計数は46万0764人、死者数は3万1257人だ。上昇傾向だ。同国では10日、24時間で1万人余りの新規感染者が出て、最多値を記録、同時に、集中治療室の患者数も増えてきた。

スペインの首都マドリードでは21日からコロナ感染の新たな規制が実施される。ペドロ・サンチェス首相が19日、明らかにしたところによると、マドリード市ではスペイン全土の平均値の2倍の新規感染者が出て、入院患者数も3倍多いという。新規規制は2週間有効。市民は自身の地区から外出できない。例外は職場に行く通勤の場合、病院に行く場合、子供を学校に連れていく場合だけだ。公共の公園は閉鎖される。店内の使用率が50%制限ならば、店、レストラン、バーも開ける。全州的には会合人数は最大6人まで。マドリード市のほか、マヨルカ島のパルマ市.でも同様の規制が実施される。

政府の規制に対し、市民の中には「政府はわれわれを閉じ込めようとしている」といった不満や批判の声が聞かれる。660万人の同市の2、3の区域では人口10万人当たり1000人が新規感染し、同国平均値の5倍も多い。

ドイツでは他の欧州と比較すれば、新規感染者は急増していないが、警戒態勢を敷いている。同国南部ミュンヘンでは21日、新型コロナ感染防止の規制強化について話し合う予定だ。同市では既に慣例のオクトーバー・フェストの開催中止が決まっている。

ドイツの国立感染症研究所「ロベルト・コッホ研究所」(RKI)では20日、1345人の新規感染者が登録された。19日は2297人で4月以来もっとも多い数だ。同国の最多値は3月末、4月初め6000人を超えた。

オーストリアでも21日、新型コロナの新規感染者の増加を受け、新たに規制強化を施行した。対象は首都ウィーン市だ。ドイツ、ベルギー、デンマークは今月16日、ウィーン市を新型コロナ感染危険地域に指定した。その結果、ウィーン市からドイツに入国する場合、48時間前(2日以内)の新型コロナテストの健康証明書を提示するか、2週間の隔離措置下に入らなければならない。隔離措置を受けた場合、72時間以内の検査を受け、陰性の場合、隔離措置から解放される。

ウィーン市では過去7日間、人口10万人あたり113人の新規感染者が出ている。急増した理由として、7月末から8月、9月上旬にかけ夏季休暇、バルカン諸国を旅行した国民が新型コロナウイルスを持ち帰ってきたためと受け取られている(「欧州で続く「渡航警告サイクル」」2020年8月23日参考)。

いずれにしても、新型コロナ感染防止策はどの国でも基本的には同じだ。治療薬、ワクチンが出来るまで、マスクを着用し、ソーシャルディスタンスを取り、不要不急の外出を自粛し、手を洗うことだ。それらの防止策を忠実に守っていけば感染の急増は避けられるはずだ。政府の規制云々というより、自身、家族、周囲の人を感染から守るために、国民の責任が問われる時代に入ってきている。

欧州では11月に入れば、1年の最大行事、クリスマスのシーズンを迎える。新型コロナ時代、いつものようにクリスマス市場で盛大に祝うことは難しいかもしれないが、国民が自分の責任で規制を遵守していけば、ささやかであったとしても、クリスマスシーズンを家族と共に祝うことができるだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年9月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。