今、なぜベーシックインカム論が再燃しているのだろう

ベーシックインカム論があちらこちらから聞こえてきます。欧州や韓国のみならず、日本でも竹中平蔵氏が菅総理と会談し、その後、ベーシックインカムの持論をテレビで振りかざしたことが話題になりました。なぜ、今、ベーシックインカム論が再燃しているのでしょうか?

竹中氏の発言でベーシックインカムが話題に(※画像は写真AC、World Economic Forum 公式flickr)

時代の変化についていけなくなった方々がコロナで背中を押された背景は大いにあると思います。人はサラリーマンでも事業者でも一定の借金を背負っているケースは多いものです。総務省統計局が発表している2019年の日本人の負債額(2人以上の世帯)は借金がない人も含めた平均は570万円ですが、借金を抱えている人だけの平均で見ると1451万円と大きく跳ね上がります。

借金、特に住宅ローンのように長期借入金の場合、今後20年、その与件が継続、ないし良化していくというシナリオをベースにしています。もちろん、これは勤労者が同じ会社で一生を過ごした時代ならば描きやすかったピクチャーですが、今の時代、転勤どころか、給与が40代後半から50代前半でピークを打つという流れになる中で見込みが狂った方も多いでしょう。

これが事業者となればコロナなどで暴風雨に直接的にさらされたわけで吹き飛ばされてしまった方も相当多いとみています。コロナで政府支援が各国で行われてきましたが、支援が切れるにあたり、暮らせないという人が増えているのだとみています。

ただ、個人的にみればコロナに限って言えば政府の支援が本当に必要とする人は案外限定され、いわゆるボーダーラインにいる人が「何もしなくてもお金をくれるならしばらくゆっくりする」という人が一定数いたのも事実です。

ところがいざ、仕事に戻るとなると物理的に職がないだけでなく、働く意欲が上がってこなくなってしまった方もいらっしゃいます。つまり、コロナの政府支援が堕落者を多少なりとも生み出したことは否定できないでしょう。(だからと言って政府支援が悪かったというのではありません。何かをすれば必ず良い点と悪い点が生じるということです。)

私はこれがベーシックインカム論が再燃している背景の一つではないかと考えています。

ではベーシックインカムは機能するのか、これは世界で議論が展開されています。さまざまな意見が交わされており、何が正しいのか答えはまだないし、今後も出ないかもしれません。

カナダでは路上生活者がコロナでより一層増えました。日中、ダウンタウンを歩けばスーパーマーケットや酒屋の前にはそんな人たちが「ごろごろ」しています。正直、初めて目にする方には恐怖心すら生まれると思います。

まだ、缶をもって「お恵みを」とお願いするのはマシな方でずっと寝ている輩においては人間として再生が可能なのか、疑わしく感じることすらあります。厳寒の冬は一定温度以下になるとシェルターが開きますが、一時しのぎですぐに追い出されます。

つまり、生きるための最低の中の最低が提供されていますが、この手の人は多少のお金があるとすぐに酒やたばこ、場合により合法大麻などに走ってしまいます。

アメリカにはフードスタンプという制度があります。一定額の収入以下で資産もほとんどない場合(20万円程度の資産額)、指定の店で食品を購入できる仕組み(EBTカードという一種の電子マネーで支払い)があり、概ね一人月2万円程度の食品購入ができます。約4000万人が利用しているとされますが、結局これも低所得者の栄養を補助するという考え方の一環で生活を丸ごと抱え込むわけではありません。

最貧困者への支援はプログラムとしては存在するもののそれはある意味、政治的で形式上の感じがしないでもありません。一方、低所得者には様々なプログラム(消費税の負担軽減、低廉な住宅への入居、各種政府サービスの割引など)が用意されていますし、高齢者には一般的なシニア割引や固定資産税の軽減などもあります。日本でもこの辺りになるとなじみがあるかと思います。

つまり、まじめに頑張っているけれど低い収入の人には手を差し伸べるという考えで何もしなくても政府からお金が落ちてきて衣食住が賄えるという発想は支持されにくいところです。いうなれば、キリスト教的思想なのでしょう。

ベーシックインカムの議論の第一歩はそこにあり、人が努力をしても届かない部分に支援をするのか、一人当たり月に5-10万円を配り包括的に面倒を見るのかは一つの論点であります。

人間にとって貧困から早く脱却したいと思う気持ち(寝たきりの人が何時かは歩いてみたいと思うのと同じ)がある限りにおいてはばらまき型ベーシックインカムではなく、支援プログラムがよいのでしょう。

所得格差問題を基準としたベーシックインカム議論に入り込めば「大きな政府」の関与が必然的になり、財政の悪化やソーシャルサービス要員の大幅増を生むこととなり、容易い問題ではありません。

一方、日本では年金問題をベーシックインカムで相殺させるという思想がないわけではなく、国の制度そのものを根幹から揺るがす話につながるわけで議論あれど巷でいうベーシックインカム制度が日本に定着するかといえば私はないと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年9月25日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。