東京の不動産が暴落しない理由

高幡 和也

テレビをはじめメディアは、コロナ禍によって東京から人が流出し始めているという論調を何故か繰り返している。

写真AC:編集部

これは、「リモートワークの増加」→「通勤する人が減る」→「都心に住む必要がなくなる」→「都心から地方へ移住」という推論で、いわゆる予定調和である。

実際に、リモートワークの普及によって郊外や地方への住み替えを考える人は増えるだろう。とくに、都心からの移住者を増やしたい地方や、田舎暮らしに憧憬をもつ人にとって、今が千載一遇のチャンスだと考えているかもしれない。

確かに長らく続いている東京一極集中は、人口の偏り、経済格差、出生率低下、晩婚化などさまざまな弊害をもたらし、地方の疲弊・衰退の主因なのは間違いない。

筆者自身も、地方の経済活性化や定住者の増加についてはぜひ実現したほうが良いと願っている一人だ。

だが、ここで現実を直視してみよう。

以下は9月8日付、朝日新聞デジタルに掲載された記事の見出しだ。

人口飲み込む東京に変化の兆し 出社減、転出超過続く

いかにも東京から多くの人が逃げ出しているような印象を持つが、これはミスリードといえる。

もちろん、記事にあるとおり、東京都では7月期の転出者が転入者を上回り「転出超過」となったことは事実だ。

この事実だけを切り取ってみると確かに東京から人が逃げ出しているという印象を受けるが、実際の転出者数とその推移をみると、その印象がかなり変わる。

総務省の住民基本台帳人口移動報告書によると、7月期の東京への転入者数は2万8735人で、前年同月比で4203人(前年同月比-12.8%)の減少となっているが、転出者数も3万1257人で前年同月比べ482人(同-1.5%)の減少となっているのだ。

つまり、コロナ禍によって東京から出ていく人が増えたわけではなく、人口移動そのものが減ったために転出超過という結果になっただけである。それどころか、転出超過の傾向がみられる他の大都市圏でも、実際の転出者数は前年同月の数字を下回っている。

テレビ番組で「東京から人がどんどん地方へ移住するから東京の地価は暴落する」という主張をしているエコノミストを見かけたが、これもちょっと単純すぎる推論だ。

公益財団法人 東日本不動産流通機構が公表しているデータによると、首都圏中古マンションの8月期の成約件数は前年同月比で18.2%の2ケタ増となった。

これは8月としては1990年5月に同機構が発足して以降で最高の数字である。成約件数の伸び率は、中古戸建住宅でも同様の状況がみられる。

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つまり、国内経済が新型コロナの影響下にあるにもかかわらず、首都圏では住宅を取得する人が増えているのである。

実は筆者も、コロナ感染症が拡大し、オリンピックの開催が延期された直後は地価の暴落(少なくとも下落傾向に転じる)が起こると思っていた。

参考 東京の不動産はやはり暴落するのか

もちろん個人住宅の売買が好調だからといって不動産相場全体が絶対に下がらないとは言えない。今後、都心部であっても不動産ごとの優位性(利便性、希少性、経済的競争力等)によって選別が進むことも間違いない。

だが、将来的に人の移動に対する自主的制限がなくなり、また東京の人口が転入超過に転じると、住宅需要は当然今よりも増える。住宅需要の堅調さが地価にどう影響するかは自明だ。

最後に、先述した中古マンションの成約件数の推移を表したグラフを載せておく。※成約数の推移は赤線