8月30日に連載⑯で、新型コロナ感染の世界の趨勢を、ドイツ、ベルギー、スウェーデン、ブラジル、日本、イスラエル、オーストラリア、米国の8カ国を選び、モンテカルロシミュレーションで解析しました。約1ヶ月経過し、ほぼ予測通りに進展していますが、陽性者数の変化だけで見ると、予想外の動性も見られますので、新しいデータを基に再解析しました。
1.解析の方法
解析の方法は前回と同じです。新規陽性者と死亡者の日毎変化のデータを再現するように計算モデルのパラメータを決めます。第2波のように時間とともに感染者数と死亡者の関連(死亡率)が初期値からずれる場合は、死亡率の異なる「種」を新しい感染源として設定しています。
前回の解析では、「在来種」と「弱毒種」の2群で全ての国を再現できましたが、今回は更に3群目まで導入する必要があり、また、今回の日本のように、死亡率が減少するだけでなく、増加する場合もあることから、群の名前を、単に「第1種」「第2種」「第3種」のようにしました。
パラメータの最適化は、日本の場合、日毎新規データ、累積データに関しては年齢2群(60歳以上と以下)の陽性者数、死亡者数を毎週水曜の厚生省のデータを用いて行っています。日本以外は、下で示すデータのグラフだけをガイドラインとしてフィッティングしています。
前回の8カ国の内、今回はブラジルを省いてフランスを追加しています。ブラジルは前回の予測線上をゆっくりとですが正確に収束に向かっています。フランスは、最近陽性者が急増している例として取り上げました。
2.陽性者数の変化
8か国の新規陽性者の日毎変化を図1、図2に示します。赤線が陽性者のデータ、黒線がシミュレーションの結果、紫線が後で述べる「実効感染者」です。
ドイツは、9月に入り第3波のような小さな波が来ています。ベルギーは同様に、9月に入り第3波が来ていますが、第1波に匹敵するくらいの急激な上昇を示しています。フランスは、第2波が急激に上昇しています。これらは他のヨーロッパ諸国にも見られる趨勢です。
スウェーデンは、厳しいロックダウンを行わず、経済活動を止めずに集団免疫獲得を目指して注目を集めた国です。陽性者数の振舞いも特殊で、第1波の後、ピークが3つほど重なった複雑な形をしていて。9月に入り更に小さい波が来ているようです。
図2の日本、米国、イスラエル、オーストラリアの4カ国は、第2波が第1波より大きいという共通点があるので、連載⑭で解析を始めた国々です。
日本とオーストラリアは、陽性者の動向でみると前回からの大きな変化はありません。順調に第2波が減衰しているように見えます。アメリカは、最近第3波のような小さな波の兆候が見られます。
大きな変化があったのはイスラエルで、ロックダウン解除後に急激に上昇しています。イスラエルは、第2波までは絶対値を含めて日本の先行事例(連載⑪、連載⑫)かと思えるような類似性があったので、この急上昇が日本にも起こるのではないかと危惧しています。
3.陽性者、死亡者数の変化(対数表示)
本連載のシミュレーションでは、陽性判明し入院してから2週間後、与えられた死亡率で死亡が確率論的に決定されます。従って、死亡率を一定とすれば、図1、図2の陽性者数から自動的に死者数が得られます。
ところが、第1波の陽性者と死亡者数を再現する死亡率では、第2波以降、陽性者数は再現できても死亡者数は全く再現できません。そこで、最初に述べたように、死亡率の異なる「種」を新しい感染源として設定し、データを再現しています。
この死亡率の変化の原因としては、PCR検査数の増大、検査精度の変化、医療技術の向上、ウイルスの変種、等考えられますが、本解析ではこれらを区別する手段やデータがありませんので、できるだけシンプルかつ数少ないパラメータの調整で、陽性者数と死亡者数を同時に再現するために、「第1種」「第2種」「第3種」のような死亡率の異なる新たな感染源を設定しています。
これを用いて、連載⑭で導入した「実効感染者」を次のように定義します。
「実効感染者」= 「第1種」陽性者数
+「第2種」陽性者×[ 第2種の死亡率/第1種の死亡率 ]
+「第3種」陽性者×[ 第3種の死亡率/第1種の死亡率 ]
これは、死亡率を「第1種」の死亡率で固定して、全期間の死亡者数を再現するために必要となる感染者数です。現実に求めるのは難しいですが、シミュレーションでは上記の定義で簡単に求められます。この「実効感染者」の観点から全体の趨勢を比較、分析します。
表1に、シミュレーションで用いた各国の「第1種」の死亡率、[第2種の死亡率/第1種の死亡率]、[第3種の死亡率/第1種の死亡率]の比を示します。
この死亡率の異なる感染源を用いて、各国の陽性者数と死亡者数を計算した結果を図3、図4に対数表示で示します。赤線が陽性者数、青線が死亡者数のデータです。黒線がシミュレーションの結果、紫線が「実効感染者」、緑線が陽性者に対する「第1種」の寄与、黄色線が「第2種」の寄与、橙色が「第3種」の寄与を表します。図4の日本に対しては、死亡者に対しても各々の寄与を同じ色で表示しています。
各国とも最近カウントされている陽性者は、死亡率が非常に小さいため線形で表すと死亡者と無関係に見えますが、図3、図4の対数表示で見る限り陽性者と死亡者は確実に連動しています。問題は重篤にならず、また、死亡につながらない陽性者も同時に多くカウントされているので、これを如何に省いて、「実効感染者」のような現実的な指標を確立するかということだと思います。実際、最近ベルギーでは、重要指標をPCR検査陽性者数から入院者数に変更しています。
日本の場合、8月の半ばから、それまでの「第2種」の死亡率では、死亡者数が過小評価になってしまいます(図4の日本の死亡者の橙色の「第2種」寄与)。そこで「第3種」では、死亡率を「第2種」のそれより大きくしています(表1参照)。このような死亡率が途中から再び上昇することは他国の例がないので、コロナ死因という判定の問題なのか、実際に死亡率が高くなった現象なのか興味あるところです。
図4のオーストラリアの場合、死亡者の予測が系統的に7日ほどずれています(オーストラリアの図の紫の破線は、予測死亡者を7日遅らせたもの)。これも、他の国ではないことなので、陽性者の判定時期等にオーストラリアの独自の事情があるのかもしれません。
4.「実効感染者」の変動から見る世界8カ国9月の動向
「実効感染者」は図1から図4にも表示されているのですが、「実効感染者」の推移をよりリアルに表現するために、実際の陽性者のデータを
実効感染者(データ)= 陽性者データ × 実効感染者(計算)/ 全陽性者数(計算)
でスケールして、図5、図6に実際のデータのように表示しました(赤線)。この「実効感染者」が、第1波「在来種」の死亡率を基準として見たときの現在の感染者数で、死亡者数の2週間前の先行指標になっています。図1、図2とはだいぶ様子が変わりますが、現在の各国の感染状況の共通点、特徴を見る重要な指標です。
図5のドイツ、ベルギー、スウェーデン、フランスでは、第2波が見えないくらい第1波より十分小さく、今後、強毒化、変種の発生等の特別なことがない限りこのまま収束していきそうに見えます。この4カ国の陽性者、死亡者の絶対値、人口当たりの数値はそれぞれ大きく異なります。
また、各国の取ったロックダウン等の対策の方法もだいぶ違います。それも関わらず、第1波と小さい第2波で収束という振舞いは4カ国とも酷似していますし、特に第1波の半値幅(ピークのところから半分の高さのところの山の幅)はだいたい同じような値です。対策によってピークを下げ、医療機関の負担減らすという、施策による形状の違いなどは何も見えないユニバーサルな傾向を示しています。
図6の日本、米国、イスラエル、オーストラリアでは、ヨーロッパ4カ国と違い、「実効感染者」で見ても第2波がはっきり見えます。オーストラリアが最も特異的で第2波でも全く死亡率が低下していません。
イスラエルは、第2波までは日本の状況に似ていましたが、9月に入り「実効感染者」で見ても急激に上昇しています。両国とも強烈なロックダウンを行い、解除し、また再ロックダウンをしていることが共通で、第2波、第3波の収束がなかなか見えないことは、ロックダウンの弊害のように見えます。
日本と米国は、イスラエル、オーストラリアとヨーロッパの中間の様相です。第2波は「実効感染者」でもはっきり見えていますが収束に向かっているようです。米国では小さな第3波の兆候が見られます。世界全体の傾向も米国に似ていますので、このような小さな波を繰返しながら収束していくのが世界の趨勢ではないかと期待しています。
以上、世界8カ国の新型コロナの9月の動向です。
5.まとめ
前回(連載⑯)の解析から1ヶ月経ちましたので、新しいデータを基に再解析しました。陽性者の振舞いは、各国で独自の変動はありますが、「実効感染者」で見ると、この1ヶ月の新型コロナの動向は、ほぼ前回の予測通りに進展しているようです。従って、結論も同じです。
1) 第1波の後、死亡率の低い第2波が現れるが、強度は弱く、収束に向かっている。強烈なロックダウン以外、各国の対策に大きな違いは、「実効感染者」の動向からは見えない。
2) 大国の場合、死亡率の低い第2波の感染は規模が大きく継続するがピークアウトの兆候が見えてきている。
3) 強烈なロックダウンは、結局、第1波と同程度の第2波、第3波を招いている。
最後に、現在使われているPCR陽性者の指標を、本シミュレーションの「実効感染者」のような新しい指標に変更することが、新型コロナ感染の状況をより正確に把握し、不必要な不安、対策を省き、より迅速に通常の生活に戻るために最も必要なことだと思います。
6.新型コロナの短期予報
ここで示した日本の結果は、9月2日の厚生省のデータで調整したパラメータを使ったシミュレーションの結果です。このシミュレーションの9月2日、9月23日の予測値を厚生省データと共に、また、9月30日と10月31日の予測値を下に示します。