トランプ氏 VS バイデン氏、前代未聞の第1回討論会の勝者と敗者は?

安田 佐和子

経済金融局CNBCが、こんなジョークを飛ばしていました。

(カバー写真:C-Span

トランプ大統領とバイデン候補、初の討論会での勝者は?
そりゃ旦那、ネットフリックスですぜ。

と言いますのも、約1時間半にわたる一騎打ちは混沌、衝突、中断、罵倒の嵐で、ユーラシア・グループのイアン・ブレマー氏が「今まで見てきたなかで、史上最悪」と切り捨てるほどの泥仕合だっただめです。

トランプ氏がバイデン氏の言葉をことごとく遮り、バイデン氏はカメラ目線でご自身の主張を訴えるなか、一向に政策議論が進みませんでした。実際、CBSとYouGovの世論調査は、以下のような結果となっています。

チャート:世論の感想は「イライラした」が69%で1位。討論会の印象も「ネガティブ」が83%と圧倒的(作成:My Big Apple NY)

CNNの世論調査では、10人に6人がバイデン氏勝利と回答、トランプ氏は28%程度でした。ただし、2016年時点の結果(クリントン氏:62%、トランプ氏:27%)と変わらないのですよ。

先のジョークは、視聴に値せずとの観点から「人々がネットフリックスに移った」と強烈な皮肉を放っていたわけですね。ちなみに、ツイッターでは司会を務めたFOXニュースのクリス・ウォレス氏に激しい批判が寄せられていたものです。余談ながらウォレス氏は72歳、バイデン氏(78歳)とトランプ氏(74歳)より、年下なんですね。

歴史に名を遺すであろう、世紀の討論会に対する主要メディアのヘッドラインは以下の通りです。

・トランプとバイデン、議論を呼ぶ第1回目の討論会で衝―Trump, Biden Clash in Contentious First Debate WSJ紙

・トランプとバイデンの、醜い第1回討論会―Trump, Biden get nasty in first presidential debate FOXニュース

・討論会でトランプはバイデンのリードを縮められず、ホラー・ショーで全米を恐怖に陥れる―Presidential debate didn’t help Trump catch Biden, but horror show scared America USAトゥデー紙

・第1回討論会、執拗なトランプの横やりが顕著に―First Trump-Biden meeting marked by constant interruptions by Trump ワシントン・ポスト紙

・トランプ、混沌とした討論会で白人至上主義を非難せず―Trump Refuses to Denounce White Supremacy in Chaotic Debate ニューヨーク・タイムズ紙

・トランプ、司会のクリス・ウォレスと議論―Trump Battles Debate Moderator Chris Wallace: ‘I Guess I’m Debating You’ ブライトバート

・討論会ウォッチャー、騒々しく混沌とした討論会を非難―Debate Watchers Slam Loud, Chaotic Trump-Biden Debate ボイス・オブ・アメリカ

・トランプとバイデン、不作法な討論会で衝突―Trump and Biden clash in ill-mannered presidential debate FT紙

・トランプとバイデン、混沌とした討論会で侮辱の応酬―Presidential debate: Trump and Biden trade insults in chaotic debate BBC

・トランプとバイデン、第1回討論会での醜い争い―Trump, Biden battle in ‘ugly’ first US election debate アルジャジーラ

・クレムリン、バイデンとトランプの討論会を米国の”新たな政治的文化“と評価―Kremlin says Biden-Trump debate shows a new trend in US ‘political culture’ タス通信(→ロシア大統領報道官のペスコフ氏のコメントを紹介)

・「おい、黙ってくれないか」、バイデンはトランプの相次ぐ妨害回避に悪戦苦闘―‘Will you shut up, man?’ Biden struggles to talk over interjecting Trump as debate gets off to messy start RT

・トランプ、米国経済の急減速につき“中国からの伝染病”を非難―Presidential debate: Donald Trump blames ‘China plague’ for US economic woes サウスチャイナモーニングポスト紙

・第1回討論会、トランプとバイデンが激しく衝突するなか混沌に陥る―First 2020 U.S. presidential debate descends into chaos as Trump, Biden clash fiercely 人民日報

さて、そうは言うものの大事なポイントもございました。今回の6つの質問ごとに見ていきましょう。

1) トランプ氏とバイデン氏の過去の記録など
→トランプ氏が2016~17年に連邦所得税につき750ドルずつしか支払っていないとの報道に対し、トランプ氏は「私はある年に3,800万ドル、別の年に2,700万ドル納税した」と発言。また、納税にあたりバイデン氏が上院議員、あるいは副大統領時代に成立した法案で損失計上などを通じ節税する仕組みが存在したと猛攻。

→バイデン氏、トランプ氏のコメント中に「確定申告を公表せよ」と口を挟む

最高裁
→トランプ氏は、選挙によって指名する権利を有する大統領は自身で、並びに承認する米上院は共和党が多数派であり、エイミー・コニー・バレット氏の指名は正当性があると主張。

→バイデン氏は、大統領選と議会選を通じ国民の意見を問うべきと反撃。この間にトランプ氏から横やりを入れられ、堪りかねて「おい、黙ってくれないか(Will you shup up man)」、「ペチャクチャ言っとけ(keep yapping)」、「シー、静かに!(just shush)」などと吐き出す

3) 新型コロナウイルス
→バイデン氏は「2月時点でいかに危険か認識していなかった・・トランプ氏はパニックに陥った」と問題を投げかけ、さらにゴルフコースで時間を浪費し、迅速に行動しなかったと糾弾した上で「米国では20万人以上が新型コロナウイルス感染により死亡し、世界全体の2割に相当する」と指摘。なお、ここで「今こういう状態(コロナ禍の状況を指す)なのは、あなたがあなたでいるからだ(It Is What It Is Because You Are Who You Are)」と言及し、一部メディアでヘッドラインとして使用される。

トランプ氏は、世界的な新型コロナウイルス感染拡大につき中国が元凶と名指。また、2009年のインフルエンザ(H1N1)の大流行時におけるオバマ政権の対応を批判。コロナ禍でバイデン氏が大統領だったならば「何百万人が死亡していた」、「米国経済を閉鎖するだろう」と警告。ワクチンをめぐり「まもなく、提供されるだろう」と言及することも忘れず。

4) 経済
→トランプ氏は「君は全く賢明ではないよ、ジョー。47年間何もしなかったじゃないか(There’s nothing smart about you, Joe. Forty-seven years, you’ve done nothing)」と発言。バイデン氏がデラウェア大学で落ちこぼれだったと批判しつつ、トランプ氏自身が大統領に着任してから47ヵ月間での実現した実績を比較。また、バイデン氏が大統領なら経済活動を再停止させると再度警告。

→バイデン氏は、これに即対応し「あなたは米国史上で最悪の大統領だ(You’re the worst president America has ever had)」と口撃。

5)人種問題と都市部での暴動
→トランプ氏は、クライム・ビルを取り上げバイデン氏を批判。一方、司会のウォレス氏が白人至上主義に対し暴力を止めるよう進言できるか質問し、トランプ氏は白人至上主義を糾弾せず、むしろ左派が暴動を起こし右派ではないと説明。バイデン氏が「言えよ!(極右の)プラウド・ボーイズだよ!」と迫るなか、トランプ氏は「プラウド・ボーイズ、後方に控えよ(stand back and stand by)」と発言。その上で「(極左の)ANTIFAと左派をどうにかしなければならない・・・なぜなら、右派ではなく左派の問題だからだ」と回答

→バイデン氏は、トランプ氏に「法と秩序(law and order)なんて言えないんだろう。言えば、過激なプログレッシブから支持されなくなるのだから」との挑発を受け、「法と秩序と正義だ」と回答。しかし、警察組織から支持を得ているかとの問いに回答せず

6) 選挙の公正性
→トランプ氏は、郵便投票の公正性をめぐり不正につながると否定的

→バイデン氏は、郵便投票を全面的に支持。

(その他①ヘルスケア)

バイデン氏は「私は彼の嘘を指摘するためにここにいるわけじゃない。(トランプ氏が)嘘つきなのは、誰もが知っている(I’m not here to call out his lies. Everyone knows he’s a liar)」と発言。

トランプ氏はこれを受け「左派に敗北し・・・(民主社会主義者の)サンダース上院議員と見解を一致させた」と批判。これを受けてバイデン氏は「このピエロ(clown)が何をしたか知っているか?(コロナ禍の)景気後退により、1,000万人もの人々が(失業した結果)企業から得た医療保険を失ったんだ」と回答。

(その他②バイデン氏の次男、ハンター氏について)

トランプ氏が戦死した米兵を「負け犬」呼ばわりした問題をバイデン氏が取り上げた後で、イラクに従軍した長男のボー・バイデン氏を愛国者だったと称賛(脳腫瘍のため2015年に46歳で死亡)。すると、トランプ氏が横やりを入れ「(次男である)ハンターのことを言っているのか?」とすぐさま切り返し、海兵隊除隊後早々の2014年にハンター氏がウクライナのガス会社の役員に就任し、資格や経験もないままに月5万ドルの収入を得ていた事実の他、コカイン中毒者だったと取り上げた。

バイデン氏は、これに対し次男がコカイン中毒を乗り越え「自慢の息子だ」と応酬。

――いかがでしたか?文字起こしすればするほど、討論会の不毛さが浮かび上がります。現地の米国人から「今回の討論会の敗者は、アメリカ人だよ。(討論会が)2回もあるなんて、米国の恥を世界にさらすようなものだ」なんて嘆息が聞かれるほど。次回は第1回を超えるドラマチックな展開が待っているのか、10月7日が待たれます。

チャート:投票日までの予定(作成:My Big Apple NY)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2020年9月30日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。