タトゥー(刺青)を入れるのは自由だけれども...

中田 宏

タトゥー(刺青)が入った20歳の男性が勤めていた高級寿司店から解雇され、解雇されたのは違法などとして法廷闘争になっていると報じられました。

ぱっと見てわかる体の部位に入っていたわけではないということや、就業規則で禁じられていなかったということなどを理由とし、一方的な解雇を不当だと主張して労働審判を申し立てたそうです。

最近ではタトゥーとも言われますが、刺青は刺青なんです。けれども、外国でタトゥーと読んだほうが軽い感じがしますね。ファッション性があったり、文化的な意味合いがあったりというようなことなどもタトゥーという響きには込められているようにも感じます。

例えば、夫婦や恋人同士が互いの名前や自分自身にとって鼓舞するようなラッキーデザインを、肩や胸、足首などにワンポイントで入れているタトゥーを見るようになりました。その意味では昔からの日本的な刺青というのとはかなり変わってきたのは事実でしょう。反社会的勢力の人たちが体の半分にドーンと威圧的なデザインを入れているとはだいぶ違います。

今年に入ってからはコロナでめっきり減った訪日外国人ですが、これまでも例えば温泉などで議論がありました。タトゥーが入っている外国人が、温泉の入浴を断られることに対する是非論ですね。ワンポイントタトゥーの場合はシールを貼って隠して入浴することで、入浴を許可する対応というのも徐々に広がってきました。

しかし、やはり日本の文化では、刺青が反社会的勢力や暴力団という人たちの象徴とこれまで考えられてきましたから、一般的には拒否反応が強いです。ですから、今回の寿司店の場合は、解雇に至るプロセスが妥当だったかどうかというのは別としても、店側としてはお客さんの反応を考えてのことだったとは思います。

今後、裁判所がどういう判断をするかについては、私は客商売という環境の中で、お客さんに対して不快感を与えるかどうかとがやはり争点になってくると思います。私も刺青やタトゥーに対しては拒否感、抵抗感がありますけれども、それはデザインに対して良いか悪いかではなくて、見えるところにあるかどうかだと思います。お客として行った場合、見えなければ私として不快感はありません。なぜならそもそも見えないからですね。

この議論、思い起こせば日本で昨年開催されたラグビーワールドカップのときも議論になっていましたね。出場国の一つだったサモアでは、大人の男性がタトゥーを入れるというのは一つの文化としてあるんです。他の国の選手もタトゥーを入れている選手が多く見られました。

そんなサモアの選手がどう対応したのかというと、基本的にタトゥーが隠れるスキンスーツを着用したんです。サモアのキャプテンであるジャック・ラム氏は「私達の文化でタトゥーは非常に一般的。しかし、私達は日本のやり方に敬意を払いたい」と語っていました。

さらに同じく、出場国の一つで強豪ニュージーランドのスター選手、アーロン・スミス氏も「僕らは日本にいるのだから。日本のやり方とか文化を受け入れなければ」と語っていました。すなわち郷に入らば郷に従う、日本がそういう国だったら我々はそれを尊重しますよということです。

逆に日本国内での議論を考えてみれば、外国人を受け入れるためにとか、国際的には文化なんだからということで、温泉への入浴をお断りするというのは、これ改めるべきだというような意見もあるようですけれども、そういうことではなくて、ここ日本には日本の文化がある。私たち日本人が外国に行った場合、訪れた国の文化に従うということもあるわけですから、そこは相互尊重することが重要だと思うんですね。

もちろん、刺青やタトゥーを入れることは自由なんです。けれども、自由だからこそ刺青やタトゥーを入れたことで社会通念を批判するのではなく、これからの生き方であるとかどこに入れるのかとなどをよくよく考えていくことがやはり必要だと思います。


編集部より:この記事は、前横浜市長、元衆議院議員の中田宏氏の公式ブログ 2020年10月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。