開成番長の勉強術:やる気が出る志望校、出ない志望校

繁田 和貴(開成番長)

はじめまして。東京、神奈川に展開する個別指導塾テスティー塾長の繁田和貴です。

これから、中学受験に役立つ情報をお届けしたいと思います。お子さんの勉強の参考になるお話だけでなく、保護者としての大切な心構えなど、読み応えのある内容を心がけて執筆してまいりますので、ぜひよろしくお願いします。

さて、10月に入り、多くの塾では6年生の過去問演習が始まり、志望校を確定させる必要が出てきます。そのため、この時期は

「志望校を下げようかどうしようか迷っている」

というご相談をよくいただきます。

果たして、志望校は高い方が良いのでしょうか?それとも現実的な方が良いのでしょうか?

今回は、子供の成績を伸ばすための志望校の選び方について書こうと思います。

合格するためには学力を伸ばさなければいけません。学力を伸ばすためには勉強しなければいけません。ですから、良い志望校とは、子供がやる気になり、より勉強するようになる志望校です。

このことを前提として考えたときに、どんなに魅力的な学校でも、子供がそこに向けて頑張ろうと思ってくれない学校は良い志望校とは言えません。

魅力的なのに、頑張ろうという気にならないの??

そんな風に疑問に思われるかもしれませんが、目標が魅力的でもやる気が出ないというのは大人でもいくらでもあることです。

このことは心理学者のアトキンソンが「期待・価値理論」としてわかりやすく説明しています。

この期待・価値理論とは何かというと、やる気は「期待」と「価値」のかけ算によって決まるという考え方です。

期待とはどのくらいの確率で求める結果が得られそうかという見込みで、価値とはどのくらいその結果が「自分にとって」魅力があると感じられるかです。

たとえば志望校を目指して受験勉強をしているお子さんがどれくらいやる気になるかは、受かる見込みがどれくらいあるかということと、その志望校がどれくらい魅力的であるかの両方の強さで決まります。

かけ算ということは、どちらかがほぼゼロであれば、一方だけが高くてもやる気は湧いてこないということです。

これらはどちらも「主観」であることに注意が必要です。親にとってどれだけ魅力的な学校でも本人が魅力を感じなければ意味がありません。

さらに合格の見込みですが、例えば模試で「合格率20%」という判定が返ってきたとき、どんなに親や指導者が「まだ合格のチャンスはある」と思っていても、本人が「もうダメだ」と思ったらやる気は湧いてこないんですよね。

こういったとき、本人が「まだチャンスはある」と思えるかどうかは、自分が努力して目標を達成したという経験をどれくらい積んできたかで決まります。

そうした成功体験を通じて、「やれば成功するし、やらなければ失敗する」と思っているかどうかです。

これを教育心理学の専門用語では、行為と結果の随伴性の認知と言います。

随伴性の認知が無い

=成功するか失敗するかは自分の努力とは無関係に、才能や運によって生じると思っている状態です。

そんな状態ではやる気を持って取り組めそうにはありませんね。

さらに、随伴性の認知がある、つまり「努力すれば成功するはずだ」という認識があっても、「その努力を自分がやり抜くことができる」と思っていなければやはりやる気は出ないでしょう。

これはバンデューラという心理学者が提案した、「結果期待」と「効力期待」という考え方です。結果期待とは、自分がある行動をとれば良い結果が得られるだろうという期待のことで、随伴性の認知にあたります。

一方、自分はそのような行動を実際に取れるかという期待が効力期待です。

例えば、受験本番までの半年間毎日8時間勉強すればここから逆転合格できるに違いないという結果期待を持っていても、自分が1日8時間も勉強することはできないだろうと思っていたら、それは効力期待が低い状態です。こういう状態ではやる気は出ないということです。

志望校を選ぶときには、「これをやれば合格がつかめるだろう」という成功の見通し・勉強計画が立てられると同時に、「これなら自分でもできそうだ」という気持ちになれる学校である必要があるのですね。

あらためてまとめですが、期待も価値も主観の問題ですから、「合格率20%」という判定でも、本人が50%と思っていれば50%、0%と思っていれば0%です。

そして、価値(魅力)100でも期待が20だったら、やる気指数は2000です。

一方、価値(魅力)60で期待が60だったら、やる気指数は3600です。

また、価値(魅力)20で期待が100だったら、やる気指数は2000です。

つまり、目標は高すぎても低すぎても良くないということですね。

お子さんにとって、価値と期待がちょうど釣り合うバランスの良い目標はどこでしょうか?お子さんとぜひ本音で話し合ってみてくださいね。

くれぐれも、自分の大学受験のときの感覚を持ち込まないようにご注意ください。自分が大学受験でE判定から逆転合格できた成功体験を持っていたりすると、お子さんの志望校選択でも同じように高い目標を設定しようとしてしまいがちです。

しかし、12歳の小学生と、18歳の高校生では、人生経験が全く違います。18歳の高校生であれば、それまでの間に積み重ねた成功体験で、「まだいける」と期待を持つこともできるかもしれません。しかし、未熟な12歳の小学生ではそうはいかないのが普通です。

お子さんの目線に立って、志望校を選ぶようにしてあげてくださいね。

最後に、今回お伝えした「期待・価値理論」や「結果期待と効力期待」といった話は、東京大学の教育心理学者市川伸一教授の著書『勉強法の科学』の第4章「やる気の出るとき、出ないとき」にまとまっています。

お子さんの学力アップに効果的な勉強のコツややる気アップの秘訣がコンパクトにまとめられた良書ですので、興味がありましたら購入して読んでみてくださいね。

今回のお話が、少しでもお役にたてば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。