「大阪都構想」住民投票は「新たな地方自治」の起点となる

原 英史

「地方自治法」は、ちょっとおかしな法律だ。名称は「地方自治」だが、内容は、地方公共団体の組織構造、権限分配、各種手続などを国が定め、地方で勝手な運営ができないようにしている。もちろん一定の統一ルールは必要だが、「地方自治法」は数多くのことをこまごまと定め、「地方自治」の余地を狭めてきた。

この点、米国の地方制度はかなり違う。州によって異なるが、一般にシティ、ビレッジなどの自治体は、住民の発意で「憲章」を定めて創設されるのが基本だ。根本的な構造からして多様で、公選市長のところもあれば、議員が市長を互選する形態、シティマネージャー型などもある。地方の自由度はずっと高い。

Luca Sartoni/flickr

日本の地方自治は、戦後GHQ主導で導入された。官選知事から公選知事への転換などはなされたが、明治以来の「官(国)が地方を統制するシステム」はしぶとく生き延びた。昭和の時代から長年「地方分権」が懸案とされてきたが、少しずつしか前進せず、国の地方統制は今も強く残されたままだ。「大阪都構想」は、この明治以来のシステムへの挑戦でもある。

もともと、大阪府と大阪市の二重行政の問題は古くから指摘されてきた。大阪維新の登場以前から「都構想」の議論があった。東京都(かつては「東京府」+「東京市」だったが、「東京都」+「特別区」になった)を参考に、二重行政を排除し、より良い行政サービスを実現しようとの考えだ。

ところが、ここで立ちふさがるのが地方自治法の壁だ。「特別区」は東京都でしか設けられないと定められている。このため、大阪でいくら議論しても、実現不能な夢物語でしかなかった。

これを可能にしたのが、「大都市特別区設置法」だ。大阪都構想が本格的に検討されはじめた中、2012年、民主・自民・公明など7会派が共同提案し、可決された。私は当時、故・堺屋太一氏らとともに、立案プロセスに関わった。

法律の考え方は、一言でいえば「住民の意思の尊重」だ。具体的には、民意を尊重する3段階のプロセスが定められている。

  1. まず、住民から選ばれた知事・市長や議員らで構成する「特別区設置協議会」で協議し、「協定書」をまとめる。
  2. 「協定書」がまとまったら、関係自治体の議会(道府県と市町村の双方)に諮り、承認を得る。
  3. そのうえで、住民投票にかける。もちろん1)と 2)をクリアしなければ 3)には進めない。

これだけのプロセスを経て民意が確認されるなら、住民の意思を尊重し、地方自治法の壁を乗り越えた自治体設計を認めよう、という法律なのだ。

今回の住民投票は、こうした経過を踏まえれば、稀有な機会だ。大阪市の方々は今、賛成にせよ反対にせよ、自分たちの地域の自治体をどう設計するか、選ぶことができる。「地域のことは住民が決める」という、地方自治法が認めてこなかった一段上の「地方自治」を行使できる。国・地方関係の歴史の中で、画期的な場面にいるのだ。

ここでの経験は、大阪都構想だけにとどまらず、明治以来のシステムを乗り越え、令和の「新たな地方自治」を作り上げる起点となりうる。

だからこそ、大阪の方々にはぜひ、十分に情報を集めて判断し、票を投じていただきたい。

わからないなら反対を」との呼びかけを拡散する国政政党があるが、本当に情けないことだ(ちなみにかつての民主党は、住民意思を尊重する「大都市特別区設置法」を共同提案したはずだ)。