日本経済新聞によれば、ネット証券の株式売買手数料の引き下げ競争が10月に入ってまた激化しているそうです(図表も同紙から)。SBI証券が手数料の無料範囲を拡大し、楽天証券やマネックス証券が追随する構図になっています。
株式売買の取次業務は、サービスの違いが打ち出しにくく、シェアの拡大のためディスカウント競争に陥りやすい構造にあります。引き下げには限界があり、このような消耗戦を続けるよりも、ビジネス戦略として別の方向性を打ち出さなければ企業としての成長は見込めません。
そこで大切になる考え方は「顧客ニーズ」がどこにあるかを把握すること。顧客が抱えている問題をどうやったら解決できるかを考え、それに沿ったサービスを展開していくことが大切です。
ネット証券に口座を開設して取引する人には、トレーディングによる短期売買が目的の人もいますが、これから増えてくるのは老後の経済的な不安を解消したいという長期の資産形成を目的とした顧客層です。
このような人たちは、投資対象を株式や投資信託といった証券商品だけに限定していません。金(ゴールド)や暗号資産(仮想通貨)さらには、国内外の不動産や太陽光発電投資といった実物資産にまで広げています。また、資産だけではなく、お金を借りるという負債についても積極的に活用する場合があります。
このような幅広い資産を包括して管理できるサービスは日本国内にはまだ存在しません。
証券業務という「たこつぼ」の中で激しく競争するのであれば、顧客目線に立って「資産運用業務」という広い視点から必要とされるサービスをゼロベースで考えてみる。個人投資家が対象としている資産をすべて「インテグレート(統合)」できれば、新しい価値を提供できます。
簡単ではないことはわかっていますが、だからこそ日本人の資産運用を根底から変える価値あるサービスとなり、価格競争から脱却できるキラーコンテンツになると考えています。
もしかしたら、証券という枠にとらわれない異業種からこのようなサービスを武器にネット証券業界に参入する企業が出てくるかもしれません。
編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2020年10月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。