富山知事選で物議:シルエットポスターは違法なのか?

保守分裂で現職と新人が激しく争う富山県知事選は、投票日まで1日半となった。選挙期間に入る前から県政関係者から石井隆一知事や県庁内の情報がアゴラ編集部に続々と提供されてきたが、他方、石井氏と争う前日本海ガス社長、新田八朗氏陣営の選挙運動の法的妥当性についても編集部に指摘が寄せられている。

特に多かったのが、新田氏のシルエットを掲載した選挙ポスターだ。公設掲示板にある新田氏本人のポスター以外に県内に登場したもので、県内在住者のSNSでも話題になったほか、県幹部もアゴラの取材の際にポスターの話題に触れ、「あれは違法ではないか」と指摘があった。

ツイッターより

しかし、結論から言うとこれは法的に問題はない。富山県では馴染みがなかったようだが、選挙戦の激しい都市部では同様のポスター、チラシはすでに使われている。

2016年の都知事選では、野党共闘の候補者だったジャーナリストの鳥越俊太郎氏のシルエットポスターが都内各地に貼られた。

2017年の埼玉県・上尾市長選でも、前県議の畠山稔氏の陣営がシルエット入りのビラを活用。畠山氏は元市議ら3人を破って初当選している。

シルエットはポスターだけではなくウェブ広告でも。今年7月の都知事選で日本維新の会が推薦した前熊本県副知事、小野泰輔氏の陣営はSNSで、小野氏と小池氏の2人らしきシルエットを比較するようにデザインしたバナー広告を配信。「赤い狐が緑のタヌキを倒す!」との挑発的なコピーもついて注目された。

これらの「シルエット」デザインは法的にどう位置付けられているのだろうか。

話題になった富山のポスターを含め、これらのチラシやポスターなどの文書図画は、候補者本人ではなく、公選法で定められた「確認団体」と呼ばれる政治団体が制作したものだ。確認団体とは「選挙の公示日から投票日までの選挙運動期間中に一定の条件の下で政治活動を許されている政治団体のこと」(ブリタニカ国際大百科事典)だ。

確認団体は選挙期間中に、チラシやポスターを発行することが認められているが、ポイントになるのが記載内容についての制限だ。実は政策の宣伝だけでなく、推薦候補の選挙運動のために使用することも認められている。

選挙運動とは「特定の選挙において」「特定の候補者への」「働きかけ」という3要素で成立するため、確認団体のチラシやポスターで候補者が特定されることは認められている。ただし、特定の候補者の氏名や氏名が類推できる事項(氏名類推事項)を掲載することはできない。

この氏名類推事項、選挙実務のプロらに取材してみると、なかなか奥深い。氏名類推事項の定義は「候補者の写真や似顔絵等」とされている。つまり、シルエットは似顔絵等には当たらないため、全国の選挙で活用されているわけだ。

他にも「○○党総裁」「○○支部長」といった肩書きも類推事項に該当しないとの法的解釈が確立しており、前出の鳥越氏の「ジャーナリスト出身」や畠山氏の「前県議会議員」も問題ない。

選挙戦の最中は、法的な指摘はつきものだが、選挙戦が激しい地域では、法的枠組みの中でどこまで攻めることができるか、創意工夫が積み重ねられており、こうしたノウハウや経験値は地域ごとの差もありそうだ。