モーニングショーと言えばコロナに関する報道も不安を煽るだけ煽り、社会に癒えることのない傷痕を残したワイドショー番組です。最近はコロナで不安を煽れなくなってきたので、次の手としてアルツハイマーに対する不安を煽ることにしたようです。
10月28日放送のモーニングショーは「歯周病がアルツハイマー病リスク促進 解明医師生解説」と題し、日本大学歯学部細菌学特任教授 落合邦康氏をゲストに迎えて、常識はずれの口腔衛生情報が放送されました。
アルツハイマーと歯周病の関連性はマウスを対象とした実験で可能性が示唆されたに留まり、専門家が広く国民に対して公衆衛生情報として喧伝する段階ではありません。
(関連)国民民主党・玉木代表の歯みがきによる認知症予防は本当? ― アゴラ(2020年10月9日)
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放送内では柔らかい歯ブラシによる極めて長時間のブラッシングと、歯間ブラシとフロス、洗口剤の使用が推奨されました。
口腔衛生の最新の知見では、柔らかい歯ブラシは普通の硬さの歯ブラシと比較して、プラーク除去効果が大幅に低下することが分かっています。歯肉が敏感でブラッシング時に痛みを伴うのでなければ、あえて柔らかい歯ブラシを使用する必要はありません。
また長時間ブラッシングすることに意味はなく、適切にプラークが除去できているかが論点になります。歯周病専門治療では歯垢染め出し液で染まった歯面をカウントするのですが、これは正しい知識の下に自分の体にあったやり方で行っているかが重要で、時間は関係ありません。
しばしば「30分毎日磨いている」という方もいますが、染め出し液での判定で磨けていなければ意味はありません。効率的に磨くことが重要で、テレビをみながら漫然と磨くことは、しばしば逆効果になります。
歯間ブラシやフロスは健康な歯肉の方が必ずしも使用する必要はなく、特に痛みを伴った無理な使用は却って歯肉を傷つけてしまいます。放送内では歯間ブラシやフロスを先に使用すると説明していましたがこれは逆で、なるべく歯の間の部分まで歯ブラシで清掃し、どうしても届かない部分にだけ歯間ブラシやフロスを使用するのが一般的な使用法です。
さらに歯肉の奥底のプラークのために殺菌剤のはいったマウスウォッシュを使用することを推奨していますが、外科手術後の管理を除いてマウスウォッシュの効果はほとんどないというのが疫学的な事実です。
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このように数多くの勉強不足に基づいた発信に違和感を覚え、公開情報に基づき落合氏の経歴を調べると、歯科医師免許は持たず、獣医師免許をもった細菌学者であることが分かりました。
歯科医師でなければ歯科に関する発信をしてはならないとは考えていませんが、歯周病に関する臨床経験の欠如は明らかで、現場と乖離した数々の発言の裏付けに微妙なものを感じました。
モーニングショーのキャスティングに妥当性はあったのでしょうか。
一方で「やって損はない、だからやるべき」という意見もよく聞こえてきますが、例えばフロスやマウスウォッシュを使用することで歯みがき時間を毎日5分伸ばしたとすると、1日2回と仮定して年間で「5×2×365=3650分= 約61時間」と、約2日半のロスをします。
ほとんどの人は3か月以内に飽きてしまい、元通りの歯みがき習慣に戻るでしょう。このように定着しない複雑な公衆衛生は、十分な効果を発揮しません。
公衆衛生とは効果が疫学調査で実証されているもののみ広く国民に推奨すべきで、なるべく安価で簡便で、効果が大きいものであることが望ましいとされています。そうであるからこそ毎日できるのではないでしょうか。