同人誌違法サイト事件に関する2020年10月6日の知財高裁判決が、上告期限の10月20日までに原告・被告の双方から申立てがなかったため、確定しました。10月21日に最高裁から確認がとれました。以下に、この知財高裁判決の概要と意義をまとめておきたいと思います。
1. 知財高裁判決の概要
本件(同人誌違法サイト事件)は、自社サイトに許諾を得ずに大量の同人誌を掲載していた会社に対して、そこに無断掲載された同人誌の作家が、著作権(公衆送信権)侵害を理由に、損害賠償を請求したという民事事件です。
同人誌の作家が一審原告、サイト運営会社が一審被告です。一審原告は、「ハイキュー!!」の同人誌である「Owl & Cat手コキ特集」(下記例①)、「TIGER & BUNNY」の同人誌である「下着おじリターンズ」(下記例②)等の著作者で、一審被告は、これらを無断で自社サイトに掲載していました。「ハイキュー!!」や「TIGER & BUNNY」等の原著作者は裁判の当事者ではない点に注意する必要があります。
一審原告は、損害額を約2億円としつつ、その一部請求として1000万円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めていました。
一審判決(東京地裁2020年2月14日判決)では、著作権(公衆送信権)侵害が認められ、一審被告に対して、219万2215円及びこれに対する遅延損害金の支払いが命じられました(一部認容判決)。
それに対して、敗訴部分を不服とする一審被告、全部認容を求める一審原告、双方から控訴がなされました。その控訴に対する判断が2020年10月6日の知財高裁判決です。知財高裁は、双方の控訴を棄却し、一審判決を維持しました。
2. 知財高裁判決の意義
⑴ 意義①:原著作者の許諾のない同人誌の無断利用について損害賠償請求できることを明示した
知財高裁は、「原著作物に対する著作権侵害が認められない場合はもちろん,認められる場合であっても,一審原告が,オリジナリティがあり,二次的著作権が成立し得る部分に基づき,本件各漫画の著作権侵害を主張し,損害賠償等を求めることが権利の濫用に当たるということはできない」と判示。
つまり、原著作者の許諾のない同人誌であっても、オリジナリティがある部分について二次的著作権が成立し、その権利行使として損害賠償請求することができると明示しました。この判断は、きわめて重要な意義を持ちます。それは、原著作者の許諾のない二次的著作物(同人誌等)の無断利用について損害賠償請求ができるかは、見解が分かれていたためです。
代表的な著作権法の基本書である中山信弘先生の本でも、「原作の著作権者から許諾を得ずに二次的著作物を創作した場合であっても、そこには新たな著作権が発生する。しかしながら…二次的著作物の著作者は第三者の無断利用に対してのみ権利行使ができるにすぎない。第三者の侵害を止めることはできるが、損害賠償については問題がある。
原著作者に無断で二次的著作物を創作した者は、自らもそれを利用できないのであるから、侵害されても損害の発生はないと考えることもできるし、原著作物の著作者から、現実に止められるまでは事実上利用することはできたのであり、現に利益を得ている場合もありうるため、損害賠償請求を認め、その後の処理は、原著作物の権利者との間で調整をすればよいと考えることもできる」(中山信弘『著作権法〔第3版〕』178頁)とされていました。
知財高裁は、この点について、明確に損害賠償請求を認めるとの判断を示しました。これは非常に大きな意義があると考えます。
なお、本件では、原著作者の許諾のない一審原告の同人誌について著作権侵害が否定されている点に注意が必要です。
⑵ 意義②:原著作物の主人公等の名前や場面設定等を流用した同人誌について著作権侵害を否定した
知財高裁は、一審被告が行った著作権侵害の主張について、原著作物のどのシーンの著作権を侵害するのかを特定していないこと等を理由に、主張立証が不十分として退けていますが、「仮に原著作物のシーンが特定されたとしても、著作権侵害が問題となり得るのは,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分(複製権侵害)に限られる」と判示。
この判示を行うにあたって、知財高裁は、本件各漫画(無断掲載された一審原告の同人誌)に以下のような特徴があることを前提事実として認定しています。
知財高裁判決が認定した本件各漫画(無断掲載された一審原告の同人誌)の特徴
本件各漫画が、上記②及び④のように、原著作物の主人公等の名前や場面設定等を流用した同人誌であることを前提にしつつ、上述のように判示したということは、原著作物の主人公等の名前や場面設定等を流用にすぎない同人誌には、著作権侵害(複製権侵害、翻案権侵害、同一性保持権侵害)が成立しないと知財高裁が判断したということになります。
あくまで事例判断ではありますが、知財高裁が、様々な形態がある同人誌について、ブラックな部分を限定的に判断し、ホワイトな形態を広く明確に示したという点は、大きな意義があると考えます。
3. おわりに
今回確定した知財高裁判決は、結果としては、同人誌を守ったものであり、同人誌・同人作家にとって有利な画期的なものでした。しかし、「原著作者の許諾のない同人誌の無断利用については損害賠償請求を認めない」との判断や、「主人公等の名前や場面設定等を流用については翻案権等の侵害が成立する」との判断が出ていれば、大変な事態になっていました。
そのような事態になれば、私が立法の土俵で全力で対応しますが、まずはそのようなことにならないことが一番です。
現行著作権法は、原著作物の著作権者が二次的著作物の著作権者よりも圧倒的に優位な地位にありますが、二次的著作物の範囲を広くとらえると、新たな著作物の創作への障害となり、表現の自由への大きな制約となってしまいます。表現の自由を守るという観点からも、模倣は文化の発展に欠かせないものであるという観点からも、二次的著作物の意義やあり方については、危険な司法判断が下される前に、そのような司法判断を牽制する意味合いも込めて、法改正を視野に入れた検討を進めていく必要があるのではないかと思います。
現在、政府の知的財産戦略本部のもとで「デジタル時代における著作権制度・関連政策の在り方検討タスクフォース」が開かれており、デジタル著作権の検討が行われておりますが、二次的著作物も項目にあがっていますので、どのような検討がなされるのか注目しています。
また、私の事務局長留任が決まった自民党の知的財産戦略調査会のデジタル社会推進知財小委員会もいよいよ再始動となりますので、その中でもデジタル著作権の項目の一つとして二次的著作物の意義やあり方について、検討をしていきたいと考えています。
新型コロナで厳しい状況にある同人誌業界を盛り上げるためにも、同人誌文化の後押しになるようなデジタル著作権の議論を進めていきたいと思います。
編集部より:この記事は参議院議員、山田太郎氏(自由民主党、全国比例)の公式ブログ 2020年10月28日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は参議院議員 山田太郎オフィシャルサイトをご覧ください。