大阪市を廃止して、4つの特別区に改編する「大阪都構想」の賛否を問うた住民投票が1日投開票され、反対派が賛成派を上回る見通しとなった。NHKニュースが同日22時44分、開票結果と出口調査などの分析結果を元に速報した。
維新、結党10年で命脈に関わる試練に
これにより、2015年に続いて2度目の住民投票も否決されたことで、大阪都構想はこのまま挫折する可能性が濃厚だ。都構想を推進してきた日本維新の会は結党から10年にして党の命脈に関わる大きな試練に直面することは必至だ。
維新の松井一郎代表(大阪市長)は選挙前の9月、日本記者クラブ主催の記者会見で「負けたら政治家としてはもう終了です」と述べ、2023年4月の任期満了をもって政界を退く意向を示している。党創設者の橋下徹氏は前回の住民投票で敗れた後、市長を任期満了後に政治の第一線を退いており、松井氏がこれに倣った場合、維新としては大黒柱を失う。
また、吉村洋文副代表(大阪府知事)は同じ記者会見で「否決されたから辞めるということは考えていない」と発言している。コロナ対応で知名度、人気が全国区になった45歳は、松井氏が退いた後は名実ともに党の顔となり、2025年の万博開催準備と並行して党の体制立て直しを図るとみられるが、今回の住民投票により、党の根幹に関わる政策が否決されたことで党勢を維持できるのか、非常に厳しい局面に立たされる。
菅首相、ワイルドカードを失う?
他方、大阪の住民投票の結果は、菅義偉首相の政権運営に大きな影を落とすのは必至だ。すでに産経新聞も指摘しているが、菅氏は安倍政権時代、官房長官として維新側との太いパイプを築き上げてきた。大阪ローカル政局では自民党と対立する維新を取り込み、憲法改正のように国論を二分する政策課題を進める上で維新の存在をうまく生かしてきたことも菅氏の力の源泉の一つだった。
自民党内に権力基盤となる派閥を持たない菅氏にとっては、維新の存在は自らの政治的求心力を維持する上でも貴重な“ワイルドカード”だった。だからこそ、菅氏は、自民党の大阪府連に配慮し、住民投票について表向きは静観してきたものの、維新に対する「側面支援」は入念に行ってきた。
大阪の政情に詳しい自民党議員によれば、菅氏は側近官僚に対して長年、大阪市から区制度への移行に備えた準備を内々に進めさせていたという。
得意の人事でも「憶測」があった。政権発足時、大阪選出の議員たちが大阪府連所属の衆議院議員14人のうち、半分にあたる7人が副大臣1人、政務官6人に起用という異例の人事。当初は「維新対策で『はく付け』」(毎日新聞)という見方もあったが、内実は在京当番の多い政務官らを東京に足止めして、やがて、住民投票の反対運動の求心力を削ぐ高等戦術だったのではないかと見る向きも出てきた。
維新への「側面支援」に限界
維新とともに公明党が推進側に回った今回、菅首相はパイプのある創価学会の佐藤浩副会長を通じて大阪市内の学会員に働きかけを強めていたとも言われる。
しかし、菅氏は自民党総裁として反対派の大阪府連の手前もあり、表立っては身動きが取れなかった。これが結果として菅氏の側近議員たちにも「思い」が十分に共有されなかった可能性がある。
住民投票の数日前、菅氏に近い自民党の若手議員は「政権にとって大阪の住民投票がいかに重たい意味を持つかわかっている議員が意外に少ない」と危機感を募らせていたが、その不安が一気に現実になってしまいそうな気配だ。大阪選出の自民党議員の1人は「安倍前総理の時代から続いてきた維新に対する“えこ贔屓”はやはりダメだ」と突き放した。
維新が今後急速に衰退していくと、菅首相が長期政権をめざす上で今回の打撃は小さくあるまい。命脈が尽きるほどではないが、命運を左右する可能性は十分にある。(アゴラ編集長 新田哲史)