アント、IPO中止に見る中国強権の時代

アメリカ大統領選の陰に隠れてあまり目立たなかったのでご存じない方もいるかもしれませんが、アントIPO中止のニュースは中国の強権ぶりを示す衝撃的事件だったと思います。

アリババグループの中核の一つでアリペイやユエバオ、芝麻信用などのブランド事業があるフィンテックの巨人、アント社は11月5日に上海市場、香港市場に同時上場する予定でした。

その上場による調達予定額は3兆6000億円でIPOとしては少し前にあったサウジアラビアの巨漢アラムコをしのぎ、史上最高額でありました。

ところがその2日前の11月3日になり中国当局がそれを差し止めたのです。理由は中国金融当局への挑戦と受け止められたから、というのが理由でしょうか?アリババグループ創業者のジャックマー氏はその前日11月2日に中国当局の聴収を受けています。理由はマー氏が10月下旬に上海で行った講演会で「良いイノベーションは(当局の)監督を恐れない。ただ、古い方式の監督を恐れる」と語ったためとされています。

マー氏は共産党員であり、中国の成長をアリババという仮面をつけて演じてきたとも揶揄されたことがあります。そのマー氏は既にアリババの最前線からは身を引き、自身が若い時にやっていた教育関係の事業をするといわれてましたが創業者としての顔は消えることがありません。その点、中国の中では奉られる存在だったわけです。アリババと中国が一体的なものであったとすればフィンテック分野ですでに圧倒的地位を築いたアントもある意味、中国の名刺の一枚になったはずです。

ではなぜ、これだけ注目されたIPOをその2日前に、しかも創業者のマー氏の発言を理由に中止に追い込んだのでしょうか?私が考えたのはジャックマー氏の絶対的地位の確立に中国当局が嫉妬し、反発したのではないかとみてます。わかりやすく言えば中国版アマゾン、中国のジェフベゾスが更に増長するのではないかと警戒心をむき出しにしたのだろうとみています。

ご存じ、ベゾス氏はワシントンポストを買収し、言論をコントロールし新業種に次々と投資をし、莫大な資産を背景に個人的影響力を自然と身に着けてきました。マー氏は既にアリババの会長を降りており、第二の人生を歩むもののアリババの取締役には残り、創業者として君臨しています。

では中国側から見ればアントの何が不満だったのか、と言えばもちろんマー氏の上記発言を問題視しているのもありますが、それはIPOを中止させるだけの表面的理由であり、違う理由が背景にあったのではないかと推測しています。それは中国当局が推進するフィンテック、デジタル元の実現を控え、アントが巨額IPOで資金をものにして更に先頭を走るのを遅らせたかったのではないかとみています。つまり、中国内の官民の開発競争を官側が強権でもって民側をぐいと足踏みさせたのではないでしょうか?

これはあくまでも中国国内のシステムは中国政府が主導するという明白なメッセージ以外の何物でもないとも言えます。ご記憶にあると思いますが、中国は自国にない技術は日本や韓国の技術者を三顧の礼で受け入れ、必要や情報を取得するとそれらの人をポイと捨てます。中国政府は利己主義であり、共産党独裁であるため、全ては中国と共産党の手中にないと気が済まないわけです。

ところがアントの場合、民間企業としてあまりにも爆発的成長をし、アリババと組んだビッグデータも含め、中国政府にとって情報吸収できる共存から脅威なる存在に変わったと見たらどうでしょうか?

考えすぎかもしれませんが、あえてもう一つ上げるならアメリカ大統領選の行方を確認し、中国側の戦略を固めることがあるかもしれません。バイデン氏が大統領になり、アメリカ議会がねじれれれば中国にとってこんなうれしくおいしい話はなく、中国覇権を増長させる絶好機になります。私は好む好まざるにかかわらず、中国がリードする時代が来てしまう、そしてそれはアメリカ国内の足並みの乱れがそうさせるとみています。

その為にはアントを中国政府の完全コントロール下に置くための手段だとしたらどうでしょうか?株主より強く、どんな取締役よりも発言と権限を持つ中国共産党はあまりにも恐ろしい存在であり、その牙はこれから更にむき出しになるかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年11月6日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。