鉛筆で「手書き」。計算は「電卓」。インターネットやパソコン・スマホの出現など、世の進化に全く影響されず、数十年変化しない。それがビジネス系の国家資格試験です。
コロナ禍で、会場受験が困難に。結果として、ネット受験はもちろん、「手書き」や「電卓」をやめ、抜本的な改革を行ってくれるのでは? そう期待していました。ところが、各資格実施団体が行った対策は、いわば「力技」。使う教室を大幅に増やす。1テーブルの人数を減らし距離を取る、などでした。8月に実施された、中小企業診断士試験では、「通常よりも快適」という声が出るほど広々していたようです。
一方、公的資格や民間資格(以下 民間資格※)は、国家資格に先んじて、古い試験体質を変えつつあります。日商簿記検定が、ネット試験方式を採用したのです。
「日商簿記検定試験(2級・3級)」へのネット試験方式の追加について(日本商工会議所)
残念ながら「自宅受験」ではなく、「試験会場で」ネットにつながった端末で受験する、というもの。とはいえ、鉛筆で「手書き」する試験からは大きな進歩です。
この変化は、今後の国家資格試験の変化をもたらすのでしょうか。
新しい簿記検定方式と、資格試験全般について考察したいと思います。
資格試験の現状
【 手書きの問題 】
国家資格(ビジネス系士業)の試験の多くは「手書き」です(社労士はマークシート)。これは字の下手な人にとって、大きな問題です。慌てて書いた0と6。後で見ると、自分でも、どちらなのか分からない。そういう人は意外と多いのです。また、「字が汚いと落ちる」などという、都市伝説じみた話も。筆者も字が雑だったため、漢字の教本などで、「訓練」する羽目に。まさに50の手習いでした。
また、解答文字数の問題もあります。中小企業診断士試験の場合、問題の多くは解答文字数 100文字。5文字以上余らせると不利になる、と「言われて」います。そのため、文字数に収まる解答を書く「訓練」も必要となります。書いてから、消しゴムで消して書き直す。それでは時間が足りないのです。
【 電卓の問題 】
国家資格で計算を伴う試験の多くは「電卓」を使います。
これは、受験する人すべてにとって、大きな問題です。
昨今、電卓を使うシーンはほとんどありません。せいぜい、数個の数字を検算する程度でしょう。一方、簿記試験などで、損益計算書、貸借対照表まで作成する場合、電卓を叩く回数は100を超えることも。当然、ミスが発生する可能性が高い。このわずかなミスが致命傷になります。
そこで、ミスを防ぐため、「訓練」が必要になります。一部の資格学校では、「利き手と『逆の手』で、電卓を操作すること」を推奨していました。右利きの場合、左手で電卓をたたいて計算し、結果を右手で解答用紙に記入する。その方が早いからです。筆者も左手で「訓練」しました。その影響か、いまだパソコンのテンキーが苦手です。
問題は、手書きや電卓の「訓練」が、実務に全く役立たないことです。実務に役立たないことに、資格受験者は、莫大な時間を費やしているのです。
新しい日商簿記検定
今回、日商簿記検定が導入したのは、ネット試験方式(CBT方式 = Computer Based Testing)です。CBTとはネットワーク化された会場でコンピュータで試験を受ける仕組です。受験者は、モニターに表示された問題を、キーボード・マウスを使って解答(入力)します。試験終了後、すぐに合否が判定されます。
主催者側にとって、会場確保が楽になる、試験回数を増やせるため受験者を分散できる、などのメリットがあります。コロナ禍のリスク低減も期待できるでしょう。
日本商工会議所ウェブサイトから、「体験プログラム」がダウンロードできます。実際に使ってみると、思ったより簡単で、使い勝手も悪くありません。