11月8日午前(日本時間)に行われた民主党のジョー・バイデン候補の勝利宣言は、女性初の副大統領になるカマラ・ハリスの力強いスピーチで始まった。インドとジャマイカの血を引くハリスは、女性、マイノリティというトランプが軽んじてきた人びとを象徴する人物だ。しかも、バイデンの年齢を考えると、次期大統領になる可能性も十分にある。
さて、登壇したハリス氏は、日頃の黒っぽい洋服とは打って変わって、純白のパンツスーツを身に着けていた。色の好みは何であれ、彼女には白を選ぶべき大義があった。この記念すべき日に着るのは白でなければならなかったのだ。
なぜなら、白は100年前に成立した米国の女性参政権のために生涯をかけて闘った19世紀末から20世紀初頭の女性たちが、女性参政権運動で身に付けたドレスの色であり、彼女がいま手に入れた政治的地位はこれら先人たちの苦難の歴史を礎に築かれたものだったからだ。ハリス氏の白いパンツスーツは女性先駆者への心からのトリビュートであった。
ヒラリー・クリントンも2016年の大統領選挙の折、ここ一番には白をまとい、女性の政治的権利の歴史に敬意を払った。さらに、2019年2月5日の大統領の一般教書演説において民主党の女性議員たちがこぞって白い服装をした。トランプ政権の女性やマイノリティに不利益をもたらす医療や社会政策に加え、大統領の女性に対する侮蔑的な態度への強い抗議を歴史的な白い衣服を身に着けることで示したのである。
参政権運動家たちの白いドレスは、自らの主張に向けられる誤解を解き、広く人びとに受け入れられるためのイメージ戦略だったと言われている。家庭こそが女性の居場所であり、女性が男性の領分に踏み込むなど論外という風潮のなかで、参政権を求める女性への風当たりは尋常ではなかった。参政権論者の女性を揶揄し、侮蔑する風刺画が盛んに描かれ、女性参政権に反対する男たちの運動も現れた。
こうした逆風の中で、女性運動家たちは、自分たちは社会の秩序、わけても男性優位の階層構造を破壊するような脅威では決してなく、教養と節度のある女性であり、女性の政治的権利は何よりも健全な家庭を築き、腐敗した政治を浄化するために必要なのだと訴えた。この清廉かつ崇高な目的の象徴として、白が選ばれたのである(下記サイトに詳しい)。
“How white became the color of suffrage”
白は日本の女性政治家にも好まれる衣服の色だ。立憲民主党の蓮舫参議院議員の白は同議員のシンボルカラーといえるほど馴染み深い。蓮舫さんが白をお召しになるのは、もちろんアメリカの女性参政権運動家たちに敬意を表したり、アメリカの女性議員に連帯を示したりするためではない、と思う。どの衣装も上手に着こなしておられるので、ご自分に似合う色として選んでおられるのか、あるいは一番お好きな色なのかもしれない。
しかし、ご本人の意図は何であれ、白は必ずしも積極的で、挑戦する色にはみえない。純真さや率直、潔白など白のもつプラスのイメージも、鋼のような男性優位の政界では歯が立たないばかりか、弱腰にさえみえる。たかが色、されど色、女性政治家が身にまとう色は政治的メッセージにもなり得るのだ。