第一生命は「オオカミ少年」を歓迎する組織に変えなければ不正は発見できない

山口 利昭

11月9日の日経ニュースによりますと、第一生命保険さんは、相次ぎ発生した営業職員の金銭詐取事件を受け、年度内にも本部に営業職員を監視する統括組織を設置することを柱とした再発防止策を正式発表した、としています(第一生命HP「元社員による金銭の不正な取得」事案についての経過報告ならびにお客さまへの注意喚起」)。

朝日新聞ニュース(有料版)の記事などを読みますと、社内で当該営業職員の不審な取引が疑われるようになった後でもコンプライアンス部門に情報が共有されていなかった、ということなので、モニタリング機能を強化しなければならないのは当然のことと思います。

ただ、(毎度申し上げるとおり)どんなに内部統制を強化したとしても「あやしい」と思った人が「あやしい」と声を上げる雰囲気(組織風土)が醸成されなければ統括組織に情報は上がってこないでしょうし、結局は絵に描いた餅になってしまいそうです。その組織風土の改革に取り組む「本気度」がなければ、今回のような不正は防げない(正確にいえば「不正を早期に発見できない」と考えます。

一番わかりやすい例が、「不正があるのではないか」と誰かが声を上げたときに、社内調査を徹底し、結局のところ不正事実が認定できなかったとしても、この「声を上げた人」を会社が称賛できる体制を採用することです。さらに、社内でそのような体制がとられている、ということをストーリーとして組織構成員に伝えることも必要です。

また、徳山で発生した事例については「特別調査役」だった89歳の職員は特別の存在であり、社内で声を上げにくかったことが指摘されていますが、そのような聖域(ブラックボックス)は一切許さない、といった組織風土に変える必要があると思います(そもそも上場会社に聖域を許容する組織風土が残っていること自体、私は構造的な欠陥があると考えます)。

もちろん、このような体制をとることには現場からは批判的な意見が出るはずですし、拒絶反応も出るかもしれません。ただ、不正防止に向けた教育研修や内部統制によって営業職員の日常の営業に制約が増えるよりも、不正はまた起きるものである、という前提で、起きた時にはアラートが鳴る仕組みを整備したほうが営業の効率性を維持するためには得策だと思います。

要は第一生命さんの経営陣が「今後は二度と不正を発生させない」という方向性で考えるのか、「また起きるかもしれないが、今度は早期に必ず発見する」という方向性で考えるのか、そこの割り切りが重要です。「多数の営業職員を抱えている上場会社」という現実を見据えた場合、私は断然後者の考え方でコンプライアンス経営を進めるべきだと思います。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年11月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。