フルーツや家畜窃盗事件増加の原因は、間違った外国人技能実習制度

黒坂岳央(くろさか たけを)です。
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昨今、外国人によるフルーツや家畜の窃盗事件が増加している。その背景にあるのは、誤った使われ方をしている外国人技能実習制度がその一端を担っているだろう。

wenmei Zhou/iStock

お断りしておくが、筆者は本制度のすべてに問題があると言っているわけではない。知人の農業経営者は、極めて人道的、丁寧に来日外国人の研修生を指導しているし、研修生たちも日本での生活に満足している。

だが、一部において、外国人技能実習生をまるで奴隷のようにこき使っているケースも存在する。さらに悪いことにコロナ禍で失業し、その結果、生活に困窮した彼らがフルーツや家畜の窃盗という犯罪に手を染めるという事件が増えている。

外国人犯罪者に変化が起きている

2017年は犯罪を犯して検挙される来日外国人に大きな変化が訪れた年となった。ベトナム人による事件が前年まで最多となっていた中国人を追い抜いたのである。警察庁の発表によると、2019年に全国の警察が摘発した来日外国人(永住者らを除く)はベトナム人が3365人(28.9%)、中国人が2948人(25.3%)となっている。実に、この2カ国だけで日本における外国人犯罪者の過半数を超えていることが明らかになった。

また、犯行の内容も国別で違いが見られる。警察庁の発表によると、ベトナム人は店舗での万引や、農作物や家畜を盗むなど窃盗犯罪の割合が高く、中国人は偽装結婚、決済サービスの不正使用等の割合が多いという。

近年になってベトナム人犯罪者が急増しているのだ。

日本の農作物や家畜が外国人に盗まれている

13万人超の登録者を抱える、ベトナムのYouTubeチャンネル・Dung Duongが炎上した。日本に住むベトナム人によって運営されていたチャンネルだが、私有地の畑や果実園から農作物を盗み、海からアワビや伊勢海老を無断で取得するなど漁業権を侵害すると見られる動画を投稿していたのだ。

また、ベトナム人による窃盗はこれだけではない。長野県の須坂警察署は今年、人気のシャインマスカットを盗んだとして、ベトナム人女性を逮捕している。その他にも群馬県警が入管難民法違反容疑などでベトナム人のグループを逮捕、北関東で相次いで家畜や果物の盗難が起こっていたケースと関与していると見られる。

なお、盗まれた豚は売りさばく目的で、許可を得ていないアパート内で解体されており、同県警は畜場法違反容疑ベトナム人技能実習生の男4人を逮捕している。盗んだフルーツや家畜は、SNSを通じて売買のやり取りがなされ、宅配便で国内のベトナム人向けに送っていたケースも明らかになっている。

ベトナム人による窃盗被害が立て続けに起きている状況だ。

中国メディアは日本の技能実習制度が悪いと批判

昨今のベトナム人窃盗事件について、中国メディア・中国新聞社は「日本の技術実習制度の問題が招いている」と論評しており、ベトナム人に同情的で、日本に批判的な見解を示した。これだけを聞くと日本人として直感的に腹立たしさを感じるも、冷静に彼らの主張を見ると、中国側の意見を全面的否定出来ないことがわかる。

レコードチャイナの記事では同記事のあらましを日本語で解説している。簡単に流れをまとめると、次のようなものとなっている。

  1. 新型コロナ感染拡大で航空会社運休により航空券が高騰、研修生は帰国できず。
  2. 感染拡大で失業したために、農作物などの窃盗に手を染め一部を自分で食べ、残りを販売。
  3. 日本の行政は失業した研修生を、新たな職場で働くことを認める人道的対応。
  4. しかし、技能実習生の制度の実態は安価に外国人労働者を獲得する手段で、日本の対応に問題がある。

※画像はイメージです(Toa55/iStock)

筆者も農業ビジネスを営んでいる立場として、盗まれた農業や家畜経営者の気持ちを思うと、悔しい指摘に感じる。だが、中国メディアの主張する通り、技能実習制度が一部について「本来のあり方と異なる使われ方をしている」という点は否定できない。

本来、この制度の趣旨は「海外の労働力が先進的な技術の取得を助け、母国の発展を支援するための制度」としてのはずだ。だが、実態としては外国人にとっては自国で出来ないお金儲けの手段で、受け入れ側には安い労働力の確保という別の手段に置き換わっている。

生活に困窮し、厳しい労働環境に不満を募らせた彼らも命がけで犯行に及んでいる。中には犯行グループで組織的に経済的利益を求めた窃盗に及び、現場では捕まるまいとして激しい暴力行為に出るものもいるのだ。一番の被害者は農業経営者である。

外国人技能実習制度が日本の農業を破壊する

筆者は我が国の農業を行く先について警鐘を鳴らしたい。年々、フルーツの生産現場は後継者不足による離農が続いている。結果的に、フルーツによっては生産量も減少の一途をたどっており、それによって価格が高騰、消費者に買われないという負のスパイラルが起きている状況だ。

労働力不足解消の頼みの綱が外国人研修生だ。だが、研修生による窃盗の犯行が増加し、被害を受ける農家が増えれば、一体なんのためにこの制度があるのかわからなくなってくる。

日本の農業を守るためにも、本制度に抜本的にメスを入れる時が来ているのではないだろうか。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。