問題の記事は事前に市の課長に見せていた
大阪都構想を巡る住民投票の期間中に発生した、毎日新聞の誤報問題はとんでもない展開を見せ始めた。
維新側が主張するように、市財政局に潜んでいた抵抗勢力と結託したのかどうか、私自身は選挙中に論評した時点では証拠不十分のために保留していたが、きのう(11/13)の読売新聞によると、毎日の市政担当記者は財政局の担当課長に下書き段階の原稿(草稿)を2度も見せていたことが明らかになり、毎日側も事実関係を認めて、「軽率だった」とする編集局長のコメントを出した。
毎日新聞記者、取材先の大阪市職員に掲載前の下書き原稿見せる…都構想巡り(読売新聞)
大阪ローカルのニュースとあってか、読売の東京本社版の朝刊では第3社会面で小さく掲載されていただけで、実は朝の段階で気づかなかった。もしこれが東京の出来事であれば、社会面トップ級または一面の3番手くらいの扱いで掲載されたほどの不祥事ではないか。
この毎日記事は広告ではなく、編集マターである。読売が「原稿を事前に渡すことで、取材対象の介入を招くおそれがある」と指摘するように、報道記事ではあり得ない事態だ。池田信夫氏もツイートしていたように、かつてTBSがオウム真理教の関係者に放映前の映像を開示したことを思い起こさせる「大問題」ではないのか。(参照:Wikipedia「TBSビデオ問題」)
党派性の問題ではなくなっている
これは大阪都構想に賛成、反対とか、維新を支持する、しないは関係ない。大手マスコミの報道機関の常識としてあり得ない。毎日新聞は取材先に原稿を見せる文化が実はあったのかもしれないが、少なくとも10年前まで私がいた頃の読売新聞では考えられない。もちろん、他紙より本件を厳しく書いている今でもそうだ。読売で同じことをやったら即刻クビとは言わないまでも、社会部から左遷は必至だ。
新聞記事の下書きを取材先に開示する「例外」があるとすれば、Q&A方式のインタビュー記事など、取材先の方のコメントで構成される記事くらいだろう。それとて私が入社する前の平成前期までの時代はかなり消極的だったと聞いている。私も社会部時代、女性歌手のインタビュー記事を書き、所属事務所にコメント確認で原稿を送った時は、彼女の文言の前後に書いた筆者の地の文は伏せた。それくらい気を遣うものだった。
私の周りの記者OBやベテランの社会部記者たちの間でも、維新や大阪都構想のことなどは関係なしに唖然としたり、都構想反対の市職員と結託した政治的策謀を疑う声が出始めている。おそらくこの記事を書いた読売の記者も当然同じような心象を抱いているのではないか。
しかし毎日は否定に必死のようだ。
この問題は、維新の大阪市議が、11日の市議会特別委員会で財政局側に渡した草稿が示されたことを機に一気に表面化したようなのだが、毎日は市の財政局長の「故意に反対に誘導する意図は全くない。あくまで誤った認識に基づく過失だ」などと述べた内容を強調し、政治的策謀を真っ向から否定するようなトーンに終始。そして、維新市議に暴露されたので仕方なさそうとばかり、付け足しで前述した編集局長の「軽率でした」コメントを掲載している有り様だ。
維新の支持者が怒りの刑事告発も!?
この問題はこのまま行けばうやむやになる可能性があるが、今回の事態を受けて維新の関係者は直接やらないだろうが、収まらない支持者たちの中には、公選法148条(虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない)に違反した疑いで刑事告発しようと試みる動きが出てくるかもしれない。
泥仕合は好ましくないが、毎日側が厳として否定し切っている以上、真相解明を徹底して求める人が出てもおかしくあるまい。
政治的策謀があったのかどうかは現段階では不明だが、以前も書いたように問題の「基準財政需要額」は総務省関係者を中心とした業界用語で、毎日新聞の記者はそもそも知らなかった疑いがあった。
毎日の編集局長が「記事には専門的な内容が含まれ、記者は慎重に取材して正確を期す意図」だったと釈明した内容はある程度は事実であろうから、やはりいい加減だったのは間違いなさそうだ。「都構想を前提にした試算ではないことを明示した」とも言い訳がましく書いているが、これも原英史氏が指摘するように一般読者が記事を読んでも、「大阪都構想で218億円コスト増」が刷り込まれた人が多数だ。
反対派にも利用されたが、それ以上の大問題とは
問題の記事は当然のことながら反対派に嬉々として利用された。自民党の国会議員を含め、毎日の紙面を丸ごと拡大コピーした掲示物をうれしそうに街頭で持って選挙運動で使用していた(SNSで画像が出回っている)。おそらく無断使用だから立派な著作権違反だ。もし毎日が許諾を与えていればそれこそ結託していたことになるから、刑事告発が受理されて捜査されれば、その関係性の有無も出てくるかもしれない(半分冗談)。
反対派の運動に使われた件はさておき、一番の「大問題」は当事者の毎日以外では読売くらいしか報道がないことだ。繰り返すが、本件はTBSのオウムビデオ事件に匹敵する不祥事だ。万一、反対派と政治的に結託していることが明らかになれば「第2の西山事件」になりかねない。
読売新聞大阪社会部は黒田軍団の伝統である「事件の大阪読売」の真骨頂を発揮して、引き続き毎日新聞を追及していただきたい。