連載⑲ 新型コロナ第3波はどうなるか?モンテカルロシミュレーションで検証

仁井田 浩二

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11月に入り急激に上昇している陽性者数に対して、「第3波と考えてもよいのではないか」とか、「急速な感染拡大の始まりと捉えている」等のコメントが出て、庶民は不安を掻き立てられていますが、ではどの位で収まるのか、について専門家からの見解が一切見られないのは、甚だ不満です。

ということで再度、モンテカルロシミュレーションを使って、ドイツ、ベルギー、フランス、スペイン、スウェーデン、日本、ブラジル、米国、イスラエル、オーストラリアの10カ国を対象に今後の趨勢を解析しました。

結論:日本の第3波は近日中にピークアウトします。

1.解析の方法

解析の方法はこれまでの連載と同じです。まず、新規陽性者と死亡者の日毎変化のデータを再現するように計算モデルのパラメータを決めます。その時、第2波のように時間とともに感染者数と死亡者の関連(死亡率)が初期値からずれる場合は、死亡率の異なる「種」を新しい感染源として設定します。

パラメータの最適化は、日本の場合、日毎新規データ、累積データに関しては年齢2群(60歳以上と以下)の陽性者数、死亡者数を毎週水曜の厚生省のデータを用いて行い、日本以外は、下で示すデータのグラフだけをガイドラインとしてフィッティングを行っています。

2.新規陽性者数の変化

10か国の新規陽性者の日毎変化を図1から図5に示します。赤線が陽性者のデータ、黒線がシミュレーションの結果、紫線が後述する「実効感染者」です。(スケールの数字が小さいので赤字でグラフに値を書き込んでいます。)

ドイツ、ベルギー、フランス、スペインの4カ国は、10月に入り第2もしくは第3波相当の波が急激に増大していますが、11月に入りピークアウトの兆候が見られます。一方、スウェーデンも同様に急上昇していますが、まだピークアウトの兆候は見られません。

日本は、9月半ばから第2波の後に微増の傾向が続いていましたが、11月に入り急激に陽性者が上昇し、ヨーロッパと同様の振舞いになっています。図3で日本をピークアウトさせていますが、明確な根拠のあるものではありません。これまでのピークの振舞いから、他のヨーロッパ諸国と同様、半値幅(ピークのところから半分の高さの山の幅)がおよそ30日でピークアウトさせています。

ブラジルは大国特有の振舞いで、インドと共に単調増加で感染者、死亡者が米国に追いついた国です。図4のように8月初めに増加が止まりピークアウトし単調減少で、今のところ再上昇の傾向は見えていませんが、ここ数日の陽性者と死者の上昇は、新たな波の兆候かもしれません。

米国は各州での感染拡大に時間のずれがあるので、第1波、第2波、第3波の間の谷が埋まっています。また、ヨーロッパと同様に現在第3波が急上昇中です。これも、計算ではピークアウトさせていますが、ピークアウトの時期はそう明確ではありません。米国の傾向は、世界全体の傾向とも相似性があり、全世界の先行事例になっているように見えます。

イスラエルとオーストラリアの共通点は、強烈なロックダウン政策を取り第1波を抑え込み、成功したように見えましたが、解除後、再び陽性者が急増し第1波を超えています。両国とも陽性者だけでなく死者も増大しているのが特徴です。今のところヨーロッパ諸国のような新たな陽性者の上昇は見られません。

3.陽性者、死亡者数の変化(対数表示)

本連載シミュレーションでは、陽性判明し入院2週間後、与えられた死亡率で死亡が確率論的に決定されます。従って、死亡率を一定とすれば、図1から図5の陽性者数が求まれば自動的に死者数が求められます。

ところが、第1波の陽性者と死亡者数を再現する死亡率では、第2波以降の死亡者数は全く再現できません。そこで陽性者と死亡者を同時に再現するように、死亡率の異なる「種」を新しい感染源として設定し、データを再現しています。

この死亡率の変化の原因としては、PCR検査数の増大、検査精度の変化、医療技術の向上、免疫力の上昇、ウイルスの変種、等考えられますが、本解析ではこれらを区別する手段やデータがありませんので、できるだけシンプルかつ数少ないパラメータの調整で、陽性者数と死亡者数を同時に再現するために、「第1種」「第2種」「第3種」のような死亡率の異なる新たな感染源を設定して解析しています。

これを用いて、連載⑭で導入した「実効感染者」を次のように定義します。

「実効感染者」= 「第1種」陽性者数

+「第2種」陽性者×[ 第2種の死亡率/第1種の死亡率 ]

+「第3種」陽性者×[ 第3種の死亡率/第1種の死亡率 ]

+「第4種」陽性者×[ 第4種の死亡率/第1種の死亡率 ]

+  ….

これは、死亡率を「第1種」の死亡率で固定して、全期間の死亡者数を再現するとき、そのもとになる感染者数という定義です。死亡者数からシミュレーションで逆算した「実効感染者」数になります。表1に、シミュレーションで用いた各国の「第1種」の死亡率、[第2種/第1種の死亡率比]、[第3種/第1種の死亡率比] ..、[第5種/第1種の死亡率比]を示します。

この死亡率の異なる感染源を用いて、各国の陽性者数と死亡者数を計算した結果を図6から図10に対数表示で示します。赤線が陽性者数、青線が死亡者数のデータで、黒線がシミュレーションの結果、紫線が「実効感染者」、緑線が陽性者に対する「第1種」の寄与、黄色線が「第2種」の寄与、水色が「第3種」、橙色が「第4種」、薄緑色が「第5種」の寄与を表します。

各国とも最近カウントされている陽性者は、死亡率が非常に小さいため線形で表すと死亡者と無関係に見えますが、図6から図10の対数表示で見る限り陽性者と死亡者は確実に連動しています。問題は重篤にならず、また、死亡につながらない陽性者も同時に多くカウントされているので、これを如何に省いて、「実効感染者」のような現実的な指標を確立するかが感染拡大の趨勢を判断するのに極めて重要だと思います。

4.「実効感染者」の変動から見る世界10カ国の動向

「実効感染者」は図1から図5にも表示していますが、「実効感染者」の推移をよりリアルに表現するために、実際の陽性者のデータを

実効感染者(データ)= 陽性者データ × 実効感染者(計算)/ 全陽性者数(計算)

でスケールして、図11から図15に実際のデータのように表示しました(赤線)。この「実効感染者」が、第1波の第1種の死亡率を基準として見たときの感染者数で、死亡者数の2週間前の先行指標になっています。図1から図5の陽性者数と比較すると様相も絶対値もだいぶ変りますが、現在の各国の感染状況の共通点、特徴を解析する上で重要な指標です。

図1から図3のドイツ、ベルギー、フランス、スペインでは、第2波の陽性者数は急増していますが、図11から図13の「実効感染者」数で見ると第2波は第1波より小さく、また収束の兆候が見え始めています。図13のスウェーデン、日本、図14の米国も、第2波以降は第1波より小さいですが、まだピークアウトの兆候は見えません。計算ではピークアウトを仮定しています。

オーストラリアは、第2波でも全く死亡率が低下していません。また、イスラエルは、第2波までは日本の状況に似ていましたが、9月に入り「実効感染者」で見ても急激に上昇し、現在は完全にピークアウトしています。両国とも強烈なロックダウンを行い、解除し、また再ロックダウンをしていることが共通です。

5. まとめ

世界の10カ国の陽性者数、死亡者数、「実効感染者」の動向をモンテカルロシミュレーションで解析しました。これまでの解析をまとめます。

1) ブラジル、イスラエル、オーストラリア以外の国々では、第1波の後、10月から死亡率は低いが感染力が強い第2波、もしくは第3波が急激に現れています。

2) ヨーロッパ5カ国は、陽性者、死亡者の絶対値、人口当たりの数値はそれぞれの国で大きく異なります。また、各国の取ったロックダウン等の対策の方法もだいぶ違います。それも関わらず、「実効感染者」でみると、第1波と比較的小さい第2波という振舞いはスウェーデンも含めて5カ国とも類似性があります。

3) 第1波の半値幅(ピークのところから半分の高さのところの山の幅)は、連載⑱で論じたようにだいたい同じです。また、イスラエルの第3波、オーストラリアの第2波の半値幅もほぼ同じです。従って、今回予測している第2もしくは第3波のピークも、半値幅をほぼ第1波と同じ約30日に設定しています。

4) ドイツ、ベルギー、フランス、スペインの4カ国では、ピークアウトの兆候が見え始めています。

5) スウェーデン、日本、米国の3カ国では、ピークアウトの兆候はまだ見られませんが、ヨーロッパの他の4カ国のピークアウトの兆候を先行事例とし、これまでのピークの半値幅がほぼ30日であることを考慮して、近日中にピークアウトすると予測されます。

6. 日本の新型コロナの短期予報

ここで示した日本の結果は、11月4日の厚労省のデータで調整したパラメータを使ったシミュレーションの結果です。このシミュレーションの11月11日の予測値と厚労省データ、また、11月18日、30日の予測値を以下の表2に示します。