新型コロナ感染拡大がヨーロッパ、アメリカ大陸で進み、日本も第3波が進行中と言われ、政府の対策に注目が集まっている。メディアやネットではGo To キャンペーンの是非や緊急事態宣言をするべきか、激しい議論が交わされている。
参考:新型コロナ第3波はすでに医療機関を逼迫させつつある ー(Yahoo!ニュース2020年11月14日)
この議論の中で「封じ込めに成功している国を見習うべきだ!」との声も多く見かける。積極的な検査と徹底した隔離を実施した中国、台湾、ベトナムが市中感染を抑え込む事に成功している事を見てのことだろう。しかし表面的な数字の裏で、それらの国で何が起きているのかを具体的に語れる人は少ない。
新型コロナ封じ込め優等生:ベトナム
ベトナムに関して言えば、積極的な検査と徹底的な隔離は確かに行われていた。しかしその具体的な運用まで知っている私としては、「日本も同じようにせよ!」と言う事はできない。むしろベトナムだからできる対策であって、日本が真似をできる部分を探すほうが難しい。
まずPCR検査で陽性になった者の行動履歴は専用アプリでオープンにされ、発生エリアは事細かにマッピングされる。メディアでも毎回報道され、個人情報の保護より感染対策が優先。更に積極的と言われる隔離策は第3次濃厚接触者にまで至る。
参考:【緊急レポート】新型コロナ対策優等生といわれるベトナム。在住日本人から見たベトナム政府の対応はどうだったか? ー(Zai オンライン 2020年6月3日)
例えば自分が陽性になった場合、同居している家族(1次)、家族との濃厚接触者(2次)、そしてその先の濃厚接触者(3次)までが検査、隔離される。隔離は原則濃厚接触者全員。潜伏期間を経て発症、市中での感染を防ぐ為だ。こうして隔離した延べ人数は百万人を優に超える。これを各地にある軍の基地、キャンプ、そして病院が連携し、専用施設にて隔離していたのだ。
この対策の成果もあって、11月16日時点で市中感染は75日連続ゼロ。死者35人、感染者は1281人に留まり、日本の数字とは比べ物にならない程少ない。格付会社の予想では2020年のGDP成長率はプラス2.8%、来年にはコロナ禍以前の数値に戻るとも言われている。
日本が真似できるとは到底思えない
ベトナムはこの政策を取る上で大量の野戦病院を各地に建設した。学生ボランティアや医療スタッフの志願も募集し、検査・隔離の対応に当たった。背水の陣、国家総動員のような形で今回のコロナ禍に対応したとも言える。一回も使わずに解体が始まった野戦病院もある。動員したスタッフは研修を実施したものの、待機しただけで終わりとなった。それでも、「税金の無駄遣い!」と批判するメディアはない。
上記はあくまで一例だが、同じ感染症対策でも日本とベトナムを比べるにはあまりにも無理があるのがおわかりいただけたと思う。アプリ一つとっても、プライバシーにどの程度配慮するかが全く違うし、国の医療体制、インフラ、健康保険制度、政治体制…どれをとっても違うのに、検査と隔離の方向性だけを取り出して単純比較できる訳がない。政府の対策が適切かどうかを判断する際、結果論で海外事例を持ち出して比較する事はやめるべきだ。
−−−
北村 泰
ベトナム語通訳・移民教育行政アナリスト。日本語ベトナム語バイリンガル、横浜国立大学中退。イデオロギーの戦いに終始する外国人を取り巻く議論と一線を画し、現制度の問題点と今後のあり方を発信。日橋塾代表。