コロナを俯瞰的に考える
新型コロナの感染拡大が深刻な段階にきているとして、小池都知事は警レベルを「最高」に引き上げました。同時に会食時の注意事項として、小声の会話など「5つの小」を要請しました。
3密(密閉、密集、密接)回避ならまだしも、「5つの小」は細かすぎ、覚えきれない。知事が記者会見でわざわざ語ることではない。「余計なお世話。もっと大切な視点がある」と思いました。
「小人数で開催」はもう皆がやっている。「小一時間でお開き」は時間が短すぎる。「小声で会話」もやっている。「小皿に取り分ける」はいうことが細かい。「小まめにマスク」は語呂合わせの付けたりです。
菅首相も「最大限警戒すべき状況にある」と、国会で答弁しました。「静かなマスク会食をお願いする」も細かな話です。「マスクを着用、小一時間」まで求められるなら、会食はしたくありません。
新聞、テレビなどの一般メディアは、新型コロナに対する問題の掘り下げ方が甘い。新規感染者の推移を棒グラフにして、第1波(3、4月)、第2波(7、8月)、第3波(11月)と感染拡大が急激であるよう印象づけるようにしています。これでは国民心理が委縮する。
専門家が「検査数が増えれば、新規感染者数が増えるのは当然」という指摘をよくします。朝日新聞の3面の「重症者、第2波を超す」という記事に、「新規感染者数と重症者数の推移」を示すグラフが載っています。
検査数は3月は1日1000件程度で、8月には1万件を越え、最近では1日8万件から10万件の検査能力を持っているようです。コロナが変異して感染力が強まっているせよ、感染者が急増するのは当然です。一般メディアより、ネット論壇が率直な主張をしています。
ネット言論サイトの「アゴラ」で、代表の池田信夫氏が「検査のサンプルが一定でないと、統計的な意味がない」と、指摘しています。感染拡大をグラフで観察するには、「総検査数−新規感染者数−重症者数」を同じ平面に並べて、すう勢を相対化してみないといけません。
日経にいたっては、「1日の感染者数の推移」だけのグラフを載せています。これでは落第点をつけるしかありません。3、4月は検査、病院の体制が不備なこともあり、検査数を抑えていました。検査数が現在の規模でしたら、第1波の感染者数はずっと多かったはずです。
朝日新聞に戻ると、第3波の感染者数のカーブが急角度で立っており、恐怖感を与えるグラフになっています。下のほうをみると、重症者数を示す曲線が描かれ、山谷があっても緩やかな波です。重症者数の推移でみると、第3波の襲来と言えるほどのものかどうか。
感染しても発症しないか、軽症で済む人が大多数です。肝心なのは重症者数、特に死者数です。「死者は4月、1日10人を超え、やがて0になった。10月以降は10人で横ばい。先進国では群を抜いて少ない」(池田氏)とし、「第3波は来たといえるのか」とまで言い切ります。
コロナの危機の実相を調べるには「検査数−感染者数−発症者数−入院者数−重症者数−死者数」を1つのグラフに書き込むことです。そうでないと、全体を俯瞰できない。こういう節目には不可欠なグラフです。読売新聞には簡単なグラフも見当たらない。
政府や都の言い分に沿って、「これは大変だ」という紙面を作るのではなく、独自の視点から考えてみるのがメディアの使命です。ついでに言えば、他国の状況とも比べないと、世界全体を俯瞰できません。
最も深刻な米国の映像を連日、見せつけられ、「日本も大変なことなる」というのは、科学的ではない。日本を含む東アジアは、地理的環境が与えた免疫力、BCG接種などの効果のせいか、欧米とは一線を画す。
さらに「アゴラ」には「英国の第1波では、感染者数は26万人、死者4万人。それが第2波では感染者111万人、死者1万人。感染者は急増していても、死者数は減っている。感染力が強まる反面、死者は少ない」(永江一石氏)との主張が掲載されました。感染者数だけみて驚くな、です。
政府や自治体は「静かなマスク会食」とか「5つの小」とか、細かなことばかりいうのではいけない。菅首相の口ぐせの「俯瞰的、総合的」に考えるのなら、他の感染症と今回のコロナの比較もすべきです。
「インフルエンザで毎年3000人ー1万人が死亡する。新型コロナ死は累計2000人」(池田氏)、「肺炎で月8000人が死亡しているのに、コロナは大騒ぎ。また、経済を止め、失業率が1%上昇すると、自殺者は4600人増える(10月は前年比で600人増)」(永江氏)です。
感染拡大の実相を見誤り、過剰に反応して経済を止めると、予期しない被害を経済社会に与えることになりかねないとの視点は必要です。感染対策の対象は、重症化しやすい高齢者に絞り込むことです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年11月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。