75歳以上の医療費負担は、1割から2割に上げるべきか

藤沢 烈

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後期高齢者(75歳以上)が医者にかかった場合の窓口負担を原則2割にすべきかどうかの議論が佳境をむかえつつあります。私は、自民党の財政再建本部のアドバイザーを務めており、このテーマが大きなトピックになっていることから、改めて何が議論されているのか整理したいと思います。

1.医療費の窓口負担の現状

日本の場合、医療費の窓口負担は通常3割です。しかし、70-74歳は原則2割、75歳以上は原則1割になっています。なお、75歳以上でも現役世代なみの収入(年383万)があると、すでに負担は3割になっています。

75歳以上の医療費は年間16.8兆円(2017年度ベース)かかっていますが、本人負担は1.3兆。残りの7.3兆円は税金であり、6.4兆円は現役世代の保険料で負担しています。

2.なぜ今変えることが必要なのか

さて、団塊世代800万人が全員75歳以上になるのが、2022年です。後期高齢者は2017年に1690万人だったのが2025年には2179万人と、3割増加することになります。そうなると、すでにあがりつづけてきた健康保険料(2009年37.6万→2019年49.6万)が、2022年には54.9万に急増する予測があります(健保連より)。

この問題は10年以上前から議論されてきましたが、いよいよ決着をつけるタイミングにきています。

3.どの程度負担が増えるのか

75歳以上ともなれば年金ぐらしが中心、病院にお世話になる機会も増える。そこに負担が倍増することに不安を覚える人も少なくないと思います。

しかし、日本には「高額療養費制度」という、窓口負担に上限がある仕組みがあります。例えば70歳以上で年収370万円の方だと、月の上限は1.8万円。仮に20万円の医療費がかかったとして、2割の4万円を負担する必要はなく、1.8万の負担にとどまるのです。(表は厚労省資料より)


したがって重い病気にかかることで病院にいけなくなるというイメージとは異なります。

4.どのように変わろうとしているのか

厚生労働省が、ちょうど19日の医療保険部会で5つの案を示しています。

まずそもそも年収383万以上は負担が3割です。その上で、155-240万の幅で、収入がある高齢者の負担を1割から2割にあげようとしています。これによって、現役世代の負担が年間470-1430億円減ることになります。ただ、現役世代の負担はすでに6.4兆円であり、これが今後大幅に増えますので、焼け石に水な面もあります。

5.医師会の反応

医師会は、340万円以上の人に限定すべきだと主張しています。こうなると、新しい変化は、340-383万円の人が1割から2割になるだけですから、ほとんど現役世代の負担は減りません。医師会としてはほとんど譲歩する気持ちがないことがわかります。

6.自民党の反応

自民党の反応は二分しています。まず、当社化位保障制度調査会の医療委員会では、「先送りするべきでは」といった2割の引き上げへの慎重論が相次いでいます。

私が参加している財政再建本部では、現役世代を重視する観点から、2割負担を求めています。

「自民党の小委員会がまとめた報告案も原則2割負担にするよう政府に求めている。1割負担を維持する低所得者の対象も絞るべきだと明記した。75歳以上の低所得者は1カ月の外来負担の上限額を8千円に抑える仕組みがあり、既に手厚い配慮がされているとみる」(日本経済新聞, 10/30)

7.改革を急ぎ、現役世代にバランスさせるべき

現在の医療は、資産をもっている高齢者も含めて一律に一割負担になっていて、その点を税金および現役世代の保険料でまかなっています。そもそも日本は現役世代の所得がのびないために少子化が進んでいます。医療費の上限が設定されているために、高齢者の健康は守られています。私は、今回確実に制度をかえ、低所得者以外の負担を2割にあげるべきだと考えています。

デジタルやハンコも大事ですが、現役世代の負担にとって最も大きなテーマは社会保障です。こうしたテーマにも関心をもって頂ければと思います。


編集部より:この記事は、一般社団法人RCF 代表理事、藤沢烈氏の公式note 2020年11月21日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は藤沢氏のnoteをご覧ください。