11月21日(土)、第13回日本内部統制研究学会の年次大会がリモート会議で開催されました(参加者は関係者を含めて120名前後だったようです)。午前の自由論題から午後の統一論題討論まで、休憩をはさんで8時間の長丁場でしたが、テーマ「内部統制報告制度導入後10年が経過した実務上の課題」にふさわしい、たいへん有益な学会発表でした。
とりわけ金融庁参事官I氏の「10年のふりかえり」と「今後の検討の可能性」に関する特別講演でのお話は、(もちろんI氏の個人的な見解を述べられたものですが)これからの内部統制制度への取組みを検討するうえではとても参考になるお話しでした。
ちなみに英国ではカリリオン社事件、ドイツではワイヤーカード社事件を契機に、いずれもSOX法(米国)や監査品質の向上に関する基準等が研究が進み、法改正が検討されているようですが、結局のところ、どこの国でも大きな会計不祥事が発生しなければ内部統制報告制度への関心も高まらない、というのが現実ではないかと。
上記金融庁参事官の講演を拝聴して痛感しましたが、この10年の市場規制の流れの中で、内部統制とガバナンスの議論の関係をどう整理するか、という問題への回答は、ますます重要になりつつあります。
たしかに、年次大会の各発表を拝聴していても、現状の問題を解決するためには、全社的内部統制を問題とすべきなのか、それともコーポレートガバナンスを問題とすべきなのか、明確には詰め切れていない議論がなされていることが垣間見えたように思います。
そのような中で、日本公認会計士協会のT会長が語ったエピソードがなかなか興味深いものでした。T会長が、某上場会社の会計監査人をされていた頃、当該会社に独立社外取締役としてN氏(著名な元経営者の方)がいらっしゃったそうです。
監査委員でもあるN氏とは、定期的な監査委員会との報告会で意見交換をしておられたそうですが、T氏が監査上の問題点を当該N氏にお伝えするたびに、「その問題は『人の問題』なのか、それとも『仕組みの問題』なのか、どちらで解決できる問題ですか」と質問されたそうです。大きな組織のトップとして、経営上の責任を担ってこられた方らしいN氏の質問が、当時はとても印象的だったとT会長が語っておられました。
(ここからは私の意見ですが)独立社外取締役として「人の問題」だと認識した場合には、取締役会の監督機能を発揮して経営者の交代、つまりコーポレートガバナンス上の問題として対応する必要があります。いっぽう「仕組みの問題」だと認識した場合には、経営管理の手法、つまり(事業戦略の実行、もしくはリスクマネジメントの実践のための)内部統制の問題として対応する必要があります。
少し前までは、「ガバナンスと内部統制の関係整理」といった話はやや「青臭い」「実務とは遠い」「原理的な」議論ではないか、といった「空気」が日本の上場企業に漂っていましたが、10月20日に再開された金融庁「SSコード、CGコードのフォローアップ会議」の議論の中身などから拝察しますと、真剣に「独立社外取締役の期待される役割」が取り上げられ、もはや「原理的」などとは言っておられない雰囲気になりつつあります。ESG経営が推進されるなかで、数値化することがむずかしい「G」のレベル感を上げるためには、独立社外取締役の役割と期待を明確に打ち出さねばならない風潮が高まっていることは事実です。
先が読めないVUCAの時代、企業の持続可能な生産性を向上させるためには、いかに変化に対応できるかという点が重視されます。その変化への対応は、経営管理の視点から臨むこともあるでしょうし、そもそも人の交代によって臨むこともあるのでしょう。
私は独立社外取締役に必要なスキルとして、「人への評価」だけでなく「仕組みへの評価」つまり内部統制の整備・運用に関する基本的な理解も不可欠ではないかと考えています。
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年11月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。