売り上げを伸ばしたい、これは経営者にとって誰もが思う共通のテーマです。この数年、私の周りではSNSなどを使ったマーケティング手法がまるで「神の手」のように言われていることもあります。事実、コロナ禍では飲食店がDine InからTake Outに変わったこともあり、SNSを駆使し、弁当や持ち帰りメニューを発信し、生き残りを模索しました。一部の店は確かに成功でしたが個人的感覚としてはそれは2割ぐらいで残り8割はどうやっても伸びなかったという気がします。
弁当やテイクアウトが伸びなかったところは単に店のメニューを持ち帰りに切り替えただけのところや日本料理店なら一般的な弁当屋とほぼ同じなのに価格が円建てで1000円以上したところが残念だったと思います。これじゃ、競争力がないので売れないとわかってしまうのです。
一方、店内飲食は極端な話、キッチン1人、ホール1人といった具合に最小限の人件費でやろうとするのでサービスが行き届かなくなり、突如満席になるとフードは出ない、サービスは来ないという総崩れが起こります。(こちらの注文や会計は日本の定食屋のように瞬時では終わらないのです。)飲食の場合、顧客が一度でも嫌な思いをすると1年は返ってこない世界ですからマーケティングのつもりでいろいろ手を出したのが後で失敗につながることがあるのです。
日経に興味深い記事があります。ユニクロのマーケティングを支えてきたジョン・ジェイ氏のインタビュー記事です。ジェイ氏はユニクロがまだ山口の田舎の店だったころからのお付き合いである意味、ファーストリテイリングという会社を知り尽くしている人です。彼の発言で着目しているのは以下の部分です。
柳井さんはTシャツ姿でカフェテリアで昼食をとった後、社員と食器を洗っていました。この光景を見て民主的な企業文化を感じました。ここから着想を得たのがカジュアル衣料の民主化。現在も続く理念である『メード・フォー・オール』です。
柳井さんが皿を洗っていたとは驚きですが、このフラットさにジェイ氏はまず目を付け、誰にでも着られるモノを提供するというアイディアから1900円という値付けのフリースが登場します。これにはフリースという素材と1900円という驚愕の価格付けで誰にでも着られるモノにするという強力なメッセージが内包されていたということです。
また、2015年にジェイ氏がマーケティングのトップに就いた際、思ったこととして「世界中に店舗がありましたが、真のグローバルブランドとは言えませんでした。現在もそうです。世界展開だけでは、グローバルブランドとは言えないのです。グローバルブランドには、中核となるものが必要です」と。
中核になるもの、これがキーワードです。自分たちの店に於いて何を売っているのか、何が最大の特徴なのか、ここが肝なのです。私はユニクロ=ベーシック=クリーン=誰でも同じというジェイ氏が初めに思い描いた民主化がそこにあり、これを世界展開しようとしているように見えるのです。
冒頭の飲食の例でもその店の「売り」「おすすめ」があるはずです。それを持ち帰りのような場面になった場合、どう生かすか、その深堀ができたところとそうではないところに明白な差が生まれたと思います。
私のように不動産を生業にしている場合はどうするのか、と言えばテナントさんとのできる限りのコミュニケーションと困っていることに対する大家としての最大限の対応に尽きます。多くの不動産事業者は日々の管理を運営会社に委託しているケースが多く、オーナーとテナントの直接的なやり取りがなされることはまずありません。私はそれを逆手にとって顧客にどんどん飛び込んでいったことは今でも正解だと思っています。
売り上げを伸ばす方法はいくらでもあるはずです。ただ、最近はSNSやインターネットでお仕着せのハウツーものが多くなり、それが本質をついておらず、表面的な繕いだけになっていることに多くの経営者が気が付いていないのです。どうやって売り上げを伸ばすか、それは経営者自身しかわからない差別化やこだわりを形を変えて顧客に伝えることが最重要なステップではないかと信じています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年11月24日の記事より転載させていただきました。