台湾、福島など5県産食品の輸入をいよいよ解禁か!?

台湾の駐日大使に当たる台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表は5日、台湾が11年3月11日の福島第1原発事故以来続けている5県(福島、茨城、栃木、群馬、千葉)の農産物など全食品(以下、5県産食品)の輸入禁止措置について、国際的な安全基準に準じて輸入を再開すべきとの見方を示した。

かつて陳水扁政権で行政院長を務めた民進党の大御所である謝氏は、「国民の健康第一が政府の立場だ」とした上で、科学的な方法で鑑定し、放射能汚染がない食品の輸入は解禁すべきだとし、でなければ台湾が目指している環太平洋経済連携協定(TPP)への参加に影響を及ぼすと述べた。

台湾は「3.11」直後から5県産食品の輸入を禁止し、さらに15年5月からは日本産の全食品に都道府県ごとの産地証明(一部には放射性物質検査証明)の添付を義務化する規制が設けてきた。中国や韓国が頑なに輸入禁止を続けている中、もし台湾が輸入を解禁すれば被災地にはこの上ない朗報となる。

今回の謝発言の背景の一つには、与党民進党が大敗し翌年の総統選での蔡英文再選が危ぶまれた18年11月の統一地方選と併せて行われた国民投票で、輸入禁止の継続が賛成779万票(反対223万票)の圧倒的多数で成立してから2年間の満期が過ぎて、再投票が可能になったこともある。

民主進歩党の名の通り元々がリベラル政党である民進党は、反原発や同性婚などを推進、この時の国民投票でこれらを勝ち取った。が、5県産食品の輸入については、民進党が解禁方針なのに対し、野党国民党は禁輸継続だ。我が国の一部野党と同様、与党の方針にはとりあえず反対ということか。

台湾では国民投票に付す事案を公募する。国民党は18年の3月から、5県産食品の禁輸継続(と火力発電削減による大気汚染の改善)を投票に掛けるべく署名活動を実施、結果、前述の禁輸継続となった。17年12月の民進党による公募要件の大幅緩和が仇(あだ)になった格好だ。

この間に逆風も吹いた。国民党馬英九政権は15年7月、5県産食品を不正輸入した業者24社を摘発した。対象商品は381品目、罰金総額は約6000万円だった。翌年1月にも某有名メーカーの「キャンディ」と「チョコレート」1,163袋が回収された。共に放射性物質は検出されなかった。当然だ。

16年5月に発足した民進党蔡英文政権は早くも11月上旬に、茶類、飲料水、乳幼児用粉ミルク、天然の水産品を除いて、福島県以外の4県産の食品輸入を認める法案を立法院に提出し、同月中旬には国民党の求めに応じて各地で公聴会を開いた。

だが、公聴会は反対派の「日本で販売できない食品を台湾に押し売りするものだ」などとの抗議で大混乱、台北では流血騒ぎまで起きた。謝長廷代表は自身のフェイスブックで、「そうした主張はただの風説で、代表処近くのスーパーには福島県産の野菜が並んでいる」と中国語と日本語で釈明した。

台湾人の噂を信じ易いこと、とうてい日本人の比でない。しかも今般のコロナ対策に見るようにスマホ普及率の極めて高い、超SNS社会だ。この種の流言飛語は一瀉千里に伝播する。筆者の知人の台湾人の何人かも、公聴会の抗議の言い分を真に受けていた。

蔡英文台湾総統(台湾総統府HPより:編集部)

他方、冒頭の謝発言の理由の一つであるTPP加盟は、米国との自由貿易協定(FTA)締結と並ぶ蔡政権の悲願だ。これらは単に台湾経済の進展に寄与するにとどまらず、諸外国と外交交渉を行って条約を締結するという、共産中国とは別の一つの存在としての証(あかし)にもなるからだ。

今般のコロナ禍にあっても、中国とその影響下にあるとされるWHOは、総会への台湾のオブザーバー参加さえ頑なに拒絶した。であれば、蔡政権が本年8月、添加剤(ラクトパミン)が入った餌で飼育された米国産の豚肉の輸入を来年1月1日に解禁すると発表して、米国の歓心を買うことも理解できる。

蔡政権のこの決定を受けて、米国の共和党42人と民主党8人の超党派議員は10月1日、ライトハイザー・アメリカ合衆国通商( USTR)代表に書簡を送り、トランプ政権に対して台湾とのFTA締結に向けた交渉を開始するよう求めた。蔡政権としては是非とも来年1月20日までに目処をつけたいところだろう。

これに対して、噂を信じ易いだけでなく血の気も多い台湾人のこと、立法院の野党国民党議員らは11月27日、政府が米国産豚肉の輸入規制緩和を決定したことを受け、与党議員らに対しバケツ何杯分もの豚の内臓などを議場で投げつけて、激しく抗議した

そしてTPP、台湾は東アジア地域包括的経済連携(RCEP)へは、加盟国への輸出の70%がすでに無関税になっているとして参加を目指していないが、TPPへの参加には意欲を示しており、目下、加入のルールが一段と明確になるのを待っていることを明らかにしている

そこで、この環太平洋経済連携協定(TPP)の中心にいる日本の歓心を買うべく、蔡政権としては10年ぶりに5県産食品の輸入解禁に踏み切りたいということだろう。果たして野党国民党、今度は「キャンディ」や「チョコレート」を与党に投げつけるのだろうか。