盛者必衰、衰え行くのかタイのタクシン勢力 --- 藤澤 愼二

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現在、王室改革のデモで揺れ動くタイであるが、実は20年近く前、新政権となったタクシン元首相も王室に対しては批判的であった。彼の政権は、貧富の差が激しいタイの社会構造の中で、貧しい農民や都市の下層階級に圧倒的に支持されて成立したのであるが、2006年9月、王様の軍隊を自認する軍部によるクーデターで潰されることとなった。

しかし、タクシン勢力は「赤シャツ」と呼ばれて、それ以降も政治的勢力を保ち続けてきた。その結果、2011年8月に妹のインラック氏が首相となったのであるが、実質的には彼の傀儡政権であったことから、同政権もまた2014年5月、軍のクーデターによって再び潰されることとなった。そして、その時にできた軍事政権が今も続くプラユット政権であり、学生たちがその退陣と王室改革を求めて国内各地でデモを繰り広げているところなのである。

一方、そのタクシン氏はというと、タイの裁判で多くの収賄事件などで有罪となった結果、現在も国外に逃亡している身である。従って、タイ国民でもない日本人の筆者が無責任にタクシン氏を支持したり、批判したりするべきではないし、ここでそれについて筆者の意見を書くつもりもさらさらない。

実はつい先日、この20年もの間、タイ政治の中で常に勢力を維持してきたタクシン氏が、自分の故郷であるチェンマイの人達に対し、フェイスブックの中で弱気とも見える以下のメッセージをアップしたのである。

写真:タクシン氏のFBから作成

ปี้น้องจาวเจียงใหม่ตี้เคารพฮักทุกท่านครับ วันนี้ผมต้องเขียนจดหมายมาถึงพี่น้องชาวเชียงใหม่เพื่อขออย่าได้ทิ้งผมนะครับ ผมอาจจะถูกทิ้งโดยนักการเมืองบางคนไปบ้าง ผมรู้สึกเฉยๆครับ แต่ถ้าพี่น้องชาวเชียงใหม่บ้านเกิดของผมทิ้งผม ผมคงเสียใจมาก ผมอยู่ต่างประเทศกับน้องสาว (นายกฯ ปู) ก็อยู่ค่อนข้างว่างมีงานไม่มาก

訳:チェンマイの敬愛する兄弟たちへ。今日はみんなに僕を見捨てないでくださいというお願いの手紙を書いています。政治家の中には既に僕を見捨てて離れていった者もいますが、そんなのは大して気になりません。しかし、故郷であるチェンマイ県民に見捨てられたら、それは非常に悲しいことです。今僕は、妹のインラック前首相と外国に住んでいますが、暇な時間があり、大してやることもないのです。

 

これがアップされて19時間経った現時点で、既に11万人がFBの“いいね”を押していたが、これが以前と同様に今も多くの支持者がいるということなのか、それとも以前よりは随分減ったということなのか、筆者にはわからない。

しかし、国外逃亡から既に10年以上が経過した今、確実にタクシン氏の求心力は衰えつつある。彼がつくった政党であるタイ貢献党(プアタイ党)から離れていく政治家も増えて、この上、チェンマイ県民からも見放されたらいよいよ終わりという危機感があるのだろうと思う。

ところで、タクシン氏はこの手紙の後半でこんなことを書いている。

「自分のこれまでの経験や知識をこれからも生かしてチェンマイの問題解決に貢献したいので、(彼が実質的な影の党首である)タイ貢献党に所属するゴン氏をチェンマイ県知事として選んで欲しい」。

出だしで僕を見捨てないでと同情を買うようなことを書いた後で、このお願いとはなかなかの策士でもある。また、その伏線として外国で逃亡生活する中、あまりやることもなく時間もたくさんあると書いてあったが、だから彼の党からチェンマイ県知事を選出してくれれば、外国から、是非故郷チェンマイのために貢献したいということなのである。

彼にしてみればチェンマイはホームグラウンドであり、最後の砦でもある。ここでも政治的勢力を失ってしまうと、いよいよタイ国民から忘れられてしまうという焦りから、こんなメッセージを書いたのであろう。まさに“盛者必衰”といわれる通り、タクシン勢力の衰えの始まりなのかもしれない。

本当のところ、彼はタイに戻ってまた政治家になりたいのだろうと思う。人は富と名声、そして権力の3つを欲しがるという。タクシン氏にはタイでも隋一といわれるくらいの富があり、そして名声もある。しかし、いくらお金と名声があっても権力から離れてしまえば、彼のメッセージにあるように、やがて故郷の人々にも忘れ去られ、過去の人物になってしまうのが寂しいのであろう。

ところで、もし日本の総理大臣経験者が有罪判決を受けた後、海外に逃亡し、そこで悠々と生活しながら、やることがなくて暇だからといって、外国から再び政治に口出ししてくるなどというシチュエーションは、我々の社会ではちょっと考えられない。それだけに、へえ、タイはこんなのもありなんだと、この文化の違いには感心してしまうのである。

藤澤 愼二(ふじさわ  しんじ) バンコクの不動産ブロガー兼不動産投資コンサルタント
2011年、アーリーリタイアしてバンコクに移住。前職ではドイツ銀行国際ファンドのシニアマネジャーとして、不動産ポートフォリオのアセットマネジメントを行ってきた。 現在は、ブロガーとして「タイランド太平記/バンコク コンドミニアム物語でタイの現状や不動産市場について最新情報を発信中。