アメリカ民主党は巨大独占企業がお嫌いであります。市場の公平性と様々な企業の市場参入のチャンスの芽を摘むこと、更に現代社会においてその巨大独占企業の大半がITに絡む業種であり、膨大なデータを保持していることから一企業が国家以上の影響力をもたらさないとも限らないリスクが生まれてきています。
経済学では完全競争と不完全競争という区分け、更に不完全競争の中で独占、複占、寡占というカテゴリーがあります。価格だけを捉えれば完全競争が良いとされますが、最適な製品の開発能力や人材確保、資金調達を行い、市場からの支持を受けて企業の成長力とよりよい製品/サービスの提供までを考えれば不完全競争の方が有利になのだろうと思います。
例えば日本の飲食店で考えてみましょう。自分の行動拠点(会社や自宅)を中心に一定範囲がその潜在的対象エリアになります。そこには多数の選択肢があるため、顧客は何処に行っても似たような金額で一般的な食事をすることができます。これはフェアシェアの理論が当てはまり、潜在人口10万人で100軒の店があれば1店舗当たり1000人の顧客シェアがあると考えます。これはあくまでも価格と腹を満たすという部分だけをとらえているので飲食のし好は考慮していません。
このモデルの場合、飲食店は一定の頑張りはするものの他のシェアを分捕るほどの改革ができず、値上げもできず、かなり硬直的で発展の余地が少ないケースとなります。これが日本モデルに近いと思うのですがアメリカの場合、事業者はより大きくするために100軒の店の選択肢を少なくすることを考えます。もしも自分がライバル店を買収すればフェアシェアは2倍になり2000人の顧客を呼び込むことが可能になります。これを繰り返すといつかは寡占の状態になりやすいのが資本主義の特徴であります。
アメリカは資本の力、従業員の高い流動性(辞めたり中途入社しやすい)、新規開発への消費者側の強い支持(フロンティア精神的なもの)が備わっており、これがGAFAといった巨大企業を生み出した背景の一つだと考えています。が、アメリカ民主党はそれら企業が許容範囲を超えたのではないかと考え、どうにかして分社化や解体ができないかと企てていました。
日経に「米当局、独禁法違反でFacebook提訴へ 現地報道」とあります。記事はさらに衝撃的で提訴するのはアメリカの48州の司法長官と連邦取引委員会がその原告となるというものです。これでは民主党云々以前に当局そのものがフェイスブック社に対して強い危機感を抱いていると言えます。
思えばマーク ザッカーバーグ氏は公聴会にしばしば招聘されているのですが、どうも彼はいじめられやすい状況にあります。GAFAの中でなぜフェイスブックだけがそうなのか、といえばビジネスモデルが一つしかないのは同社だけなのです。GAFAの収益のセグメントを見れば同社以外はかなり様々な収益源を持っています。アマゾンはAWSが稼ぎ頭ですし、アップルはソフト部門が強化されています。つまりソーシャルメディアの一本足打法である点がもっとも忌み嫌われているとみています。
この訴訟の目指すところはフェイスブックとインスタ、ワッツアップの分社化だろうと思います。そしてこのタイミングで訴訟に打って出たのは来年早々にも発行計画のあるDiem(リブラ)という暗号通貨について一定の抑止力を行いたい当局の姿勢があるのでしょう。もう一つはフェイスブックの利用者が中国など一部の国家を除き地球規模となり、これ以上進むとアメリカ当局がその影響力を行使できなくなるリスクがあるからではないでしょうか?これが壮絶なバトルになることは確実です。そしてその行方は残る巨大企業の方向性にも大きな影響力を与えるでしょう。
グーグル社は反トラスト規制でEU当局から巨額罰金の制裁を受けています。なぜかと言えばサーチエンジンのマーケットシェアをほとんど独占しているからであります。これが不公平だと称しているわけですが、利用者から見ればグーグルより良いサーチエンジンがないのが実情です。この会社を解体、分社化せよとするのが正しいのかこれは議論を要するところです。なぜなら同社はコンテンツを提供しておらず、ITのインフラ的機能であり、地球規模で求められていたグローバル化=「均一な社会」のお膳立てをしていると考えられるからです。
フェイスブック社は解体すべきか?私に言わせれば例えは悪いですが、ジャニーズ事務所のようなものなのです。年代ごと、顧客対象ごとに似たような、しかし、微妙に特徴があるSNSの選択肢を提供しているだけです。フェイスブック、インスタ、ワッツアップ全部に均等にアクセスしている人はよほどの暇人でしかありません。私の廻りではフェイスブックが既に廃れはじめており、ほとんどアクセスしない、アップしない人ばかりで登録しているけれど最近はのぞき見すらしない人が急増中です。つまり、SNSも時代と共に大きくその立ち位置を変えているわけでフェイスブックそのものの利用価値は思ったより低くなってきているかもしれません。当局がそれに目くじら立ててるのもどうなのかと私は思います。
巨大独占企業は解体すべきか、大きなテーマですが、巨大独占企業も楽勝のビジネスをしているわけではなく、いつ、だれから蹴落とされるかわからない厳しい世界にあると言えます。マイクロソフトもその辛酸を嘗めたし、スターバックスだってオーストラリアから撤退するなど世界制覇はできなかったのです。
企業論、資本論、競争社会、民主主義など様々な切り口がこの問題には内包されていると思います。もちろん、私も結論は出せていませんが、今、分社化、解体化議論ではないという気がします。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年12月10日の記事より転載させていただきました。