75歳以上の後期高齢者は医療費の窓口負担が原則1割というのは、いくらなんでも安すぎます。残り9割を支えているのは、国庫負担が5割、現役世代の健康保険料からの拠出金が4割です。自己負担増が必要です。
先日、地元の循環器内科に行き、処方箋をもらい調剤薬局に寄りましたら、80代半ばと思われる男性が12種類ほどの薬を受取るところに出くわしました。1割負担ですから、1万円相当でも1000円で済みます。「負担が重いから節約してみよう」という価格メカニズムが働きません。
ゴルフ好きの知人の話では、高齢者になると、プレー中に足がつることが多くなる。漢方薬の「芍薬甘草湯」は即効性があり、痛みがすぐ解消する。高齢ゴルファー必携の妙薬だそうです。
通販ですと、1袋50ー100円ほどですか。調剤薬局で買うと、1割負担ならこの代金で10袋か20袋は買えます。整骨院の扱いかと思いましたら、循環器内科でも「足がつる」といえば、処方箋を出してくれます。
高齢でゴルフを楽しんでいるのは、資産もある豊な人たちでしょう。窓口負担を1割にする必要は全くありません。経済力(資産や収入)に応じて自己負担率を決める「応能負担」が合理的です。公明党などが率先して、提唱しないのか不思議です。
高齢者は現役世代に比べて、多くの金融資産(貯蓄、有価証券)を保有しているのに、「75歳以上は原則1割負担」という年齢区分は間違った考え方です。菅首相が「年収170万円以上は2割負担とする。一切の妥協案はない」と、固い決意で高齢者医療費の改革に臨みました。
75歳以上の医療費は19年度、16兆円かかっています。自己負担はわずか1・5兆円です。所得が伸び悩んでいる現役世代からの拠出金が6・8兆円というのは酷すぎる。財政赤字が急膨張している国庫から8・5兆円も補助する余裕なんかありません。
それを阻止しようとしたのが公明党です。山口代表は「新型コロナの感染拡大で、国民の負担力は弱まっている。結論を急ぐべきではない」と、発言しました。公明党の本音は「創価学会、公明党の支持層の高齢化が進んでおり、高齢者医療費の引き上げはこたえる」です。
来年10月までに総選挙があります。もっと本音を言えば、「自民党案だと、520万人に影響がでる。小選挙区で割ると2万人近くなる。自公はぼんぼん選挙で落ちる」(党幹部、読売12/11日)のだそうです。
現役世代のことより、高齢化が進んだ学会員の暮らしが心配だ。あるいは議員が落選すれば、党勢に影響がでる。要するに、国政より、自分たちの都合を優先するという考えなのでしょう。
結局、菅首相と山口代表のトップ会談で「年収200万円以上は2割負担」との妥協案が成立しました。それも、山口代表が記者団の前で「首相が200万円の案を示したので、それで結構ですと、申し上げた」と説明しました。どちらが首相か分かりません。花を持たせてもらったのでしょう。
現役世代を痛めつけているようでは、日本の将来は暗い。新型コロナ感染による死者は、70代以上が8割です。高齢者を救うために、現役世代の雇用や職場が犠牲になっているとみてもおかしくない。
11月の自殺者は1800人で、前年比で180人増、5か月連続で前年を上回っています。特に10月は20-50代の女性の自殺が増加し、厚労省は「コロナの長期化で生活苦や家庭での悩みが深刻化した。非正規雇用の失業者が女性に多く、自殺増につながっている」と、みています。
高齢者には年金が支払われており、現役世代のように、所得が突然、途絶えることはない。無尽蔵に近いコロナ対策費は、巡り巡ってマネー市場にも流れ、株価は2万6000千円台を回復しました。資産保有層は株高で潤い、社会的格差は広がっています。その矛盾なぜつかないのか。
全てが公明党のせいではないにしても、多くの国民のためなる合理化政策はいくらでもあります。「病医院と同じ営業時間帯でも経営が成り立つ調剤薬局のからくり」「年齢による区分ではなく、応能負担による現役世代の負担軽減」などにも取り組んだらどうでしょう。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年12月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。