アメリカの学術機関への中国からの寄付の危険(古森 義久)

ハーバード大学(DenisTangneyJr/iStock)

顧問・麗澤大学特別教授   古森義久

アメリカの民間研究機関「民主主義防衛財団」(FDD)はアメリカの大学や研究機関が中国共産党系の組織から寄付を受けている実態とその危険についての調査報告書を11月下旬、発表した。同報告書はアメリカの有名大学や著名シンクタンクが中国機関からの巨額の寄付を受け、その結果、中国に高度技術を取得され、さらに中国の政治的な影響を受けやすくなる危険を強調していた。

FDDの同報告書は「カネの流れを追え・学術機関やシンクタンクへの中国の影響力作戦を明るみに出す」と題され、中国政府機関によるアメリカの学術や教育の諸組織に対する資金提供による政治工作に光を当てていた。

同報告書はまず、トランプ政権のマイク・ポンペオ国務長官を中心とする複数の政府機関が中国側の対米工作を「アメリカ国内での中国に対する認識や政策を中国側に有利に歪めて、変えようとする危険な試み」と定義づけ、中国側がその最大手段として米側の有力な大学や研究所に巨額の寄付金を提供している事実を挙げていた。

トランプ政権では国務省だけでなく、司法省、教育省がこの中国の対米政治工作の捜査や取り締まりに当たっているとして、その成果の実例としてハーバード大学の化学生物学科長のチャールズ・リーバー教授が中国政府機関からひそかに巨額の資金を受け取って、 中国に協力していたことが判明し、逮捕、起訴された事件を指摘していた。

リーバー教授は米側のハーバード大学から給料や研究費を得ながら、中国との関わりは一切、秘密にしていた。中国側は外国の優秀な科学者を秘密裡にリクルートして、自国の軍事研究に寄与させる「千人計画」の一環としてリーバー教授を徴募していた。この事件も中国の対米影響力行使工作の一例だというわけだった。

FDDの報告書はその上で中国の工作の他の実例として、トランプ政権の教育省が最近、明らかにしたアメリカの有名大学への寄付金について以下のように述べていた。

  • ジョージタウン大学は最近、中国共産党中央委員会から合計200万ドルの寄付を受けた。アメリカの大学が寄付金の内容やその起源を公表する義務はないが、ジョージタウン大学の場合、「中国共産党中央党学校との学術交流」という名目でその寄付の受け取りを処理していた。教育省の調査によって、その実態が判明した。
  • コーネル大学は中国の人民解放軍と絆の深い大手企業ファーウェイとの科学交流の名目の下に約100万ドルの寄付を受け取っていた。だがアメリカ政府当局への報告はせず、教育省の独自の調査によって資金の流れが確認された。
  • メリーランド大学は中国のオンラインビジネスの巨大企業アリババの持株会社から多額の寄付金を受け、アリババのために群衆コントロール技術のアルゴリズム(コンピューターでの計算方法)開発を進めていた。その種の技術は中国では民主主義的な抗議活動の抑圧に使われる。

FDDの同報告書はアメリカ側の主要研究機関についても以下のように述べていた。

  • アメリカの研究機関は寄付の受け取りの全容を開示する法律的義務はないが、主要シンクタンクのうち中国側の政府機関や企業から寄付を受け取ったことを認めたのは3機関だけだった。残りはみな中国共産党との関係の深い中国側の個人からの寄付となっており、実態の把握が難しい。
  • 中国側からの寄付金の額が大きいアメリカ側研究機関ではロボット工学、半導体、クラウド・コンピューティング・サービスなどという分野の米中共同研究を実施していたところが大多数だった。

以上のように述べたFDD報告書は中国のアメリカ学術、教育機関への侵入は米側の国家安全保障をも脅かす重大な現象であり、今後、米側の政府機関が新たな取り締まり法規の新設までを含めて厳しい法的対処を採ることを勧告していた。

古森  義久(Komori  Yoshihisa)
1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2020年11月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。