会長・政治評論家 屋山太郎
トランプ大統領の対中バッシングの結果、中国は新バイデン政権を相手に失地回復を狙ってくるはずだ。中国が受けた打撃の中心部分は貿易だろう。世界一売れていたファーウェイ(華為技術)製品の輸入禁止は中国にとっては想像を絶する打撃だっただろう。輸入禁止にされた決定的理由は安全保障の観点からだという。ファーウェイ製品には隠された「裏口」が埋め込まれて、北京が容易に情報にアクセスできるという噂は長年あったが、米国は黙認してきた。本当だとすると米国の武器にファーウェイは使えない。
米国だけでなく日本で作った軍需品や日用品でも米国向けの輸出品にはファーウェイ製品は使えない。
中国は経済の自由にかこつけて、WTOの重大な原則を破ってきた。その一方で最近、中国は経済成長の回復のために、東アジア包括的経済連携(RCEP)に加入した。RCEPはWTOの原則を一段柔らかくしたものと理解すればいいだろう。しかし中国ほどの大国なら超先進国との貿易がしたい。そのレベルの貿易交渉を可能にするのが環太平洋パートナーシップ協定(TPP)である。このため中国政府は「TPPに入りたい」と公言している。経済的、科学的発展にはRCEP、TPPに加入することが必要不可欠なのだ。
トランプ氏が就任早々TPPを脱退したのは理解できないが、世界の貿易協定全てをやり直したいと思ったのではないか。バイデン新大統領はおそらく、いち早くTPPに復帰するだろう。加入条件は参加国全員の賛成が要るから、貿易方法を調整して中国加入より一足先に入ることが好ましい。
中国は留学生を企業、大学、研究所から追放されたから、新しい製品を輸入して、勉強する、という2001年以前の状況に戻らざるを得ない。RCEPにせよ、TPPにせよ、中国加入の問題点は国内企業に対する①政府補助金の支持と②知的産業の盗用だろう。
ファーウェイが世界中で売れまくったのは3割もの政府補助金を注いでいたとの報道調査がある(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。また米フォーブス誌によれば、中国が2017年に電気自動車購入促進のために付けた導入補助金の総額は、中央・地方政府を合わせ、約77億ドル(約8,700億円)だった。これに対し、令和元年の補正予算額における日本政府のクリーンエネルギー自動車導入事業費補助金は50億円に過ぎない。
日本や欧米は企業の開発力による競争だが、中国は徹底した国策による開発を行っている。国営の品質はやがて落ちるというのが、従来の西側世界の常識だったが、中国の国産車が世界を覆うことがないように、中国車に高い関税を掛けておくべきだ。
貿易体制のやり直しというのは詰まるところ共産主義国家とは違う付き合い方、市場を作るしかないということだ。これをやれば、中国はあっという間に貧乏国に転落する。
(令和2年12月16日付静岡新聞『論壇』より転載)
屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2020年12月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。