スイスの安楽死と「死の付添人」の話

スイスには安楽死を願う人々が世界から集まる。同時に、国内でも安楽死を希望する国民が増加してきたという。以下、スイス放送協会のウエブサイト「スイス・インフォ」からのスイスの安楽死に関連する複数のニュースレターを当方がまとめてみた。

(写真AC:編集部)

スイスには「エグジット」と呼ばれる自殺ほう助を行う非営利団体が存在する。1982年に創設され、昨年末現在で12万8212人の会員(会員登録費年間40から80フラン)が登録されている。同団体は国内居住者の安楽死のほう助を取り扱うが、国外居住者の安楽死ほう助を支援する団体としては「ディグニタス」が存在する。

会員は昨年末で9822人だ。国別ではドイツ人が3225人で最多だ。日本人も47人が登録している。その他、国外居住者を対象としている団体としては「ライフサークル」や「ペガソス」などがある。

誤解されないように説明する。先日のコラム(「『安楽死の自己決定権』尊重すべきか」2020年12月13日参考)で紹介したが、通称「安楽死」には、同意殺人を意味する「積極的な安楽死」から「自殺ほう助」、そして「受動的な安楽死」がある。スイスでは「積極的な安楽死」は法的に禁止され、医師は自殺する日に診断書を提出するが、安楽死の現場には同席しない。医者の自殺ほう助は法的に刑罰を受ける。

医師は患者に直接致死量の薬や注射を投入することは認められていない。安楽死を希望する患者は医師が準備した致死薬を自ら体内に取り入れるか、延命装置を外す。自殺のほう助は、①治癒する可能性がない場合、②耐えられない苦痛や障害がある場合、③健全な判断力を有する場合、という3条件を満たす必要がある。

スイス連邦統計局によると、がん患者が36%、多疾患罹患26%、疼痛患者7%、筋萎縮性側索硬化症(ALS)3%、そして精神疾患・認知症は各2%だ。患者は昔、65歳以上が大半だったが、最近は若者も増えてきている。スイスでは年間、1000人を超える人が安楽死のほう助を受けて自死する。

スイス・インフォは安楽死を願う患者に自死ほう助する専門家「死の付添人」の歩みをルポで報じている。「死の付添人」は65歳以上の人が多く、退職後、安楽死の患者を支援したいということで勤務する人が多い。「死の付添人」になるためには約1年間、研修を受ける。「エグジット」には現在、40人余りの「死の付添人」が登録されている。

エグジットの場合、「死の付添人」の報酬は1件につき650フラン(約7万6000円)を受ける。それ以外に電話代や交通費も支払われる。「エグジット」関係者によると、安楽死は1件に平均20時間がかかるという。時給にすれば35~40フランになる。「付添人」は患者と家族と一緒に付き添いながら患者の最期を見守る。

患者は基本的には自宅や高齢者ハイムで自死を願うから、「死の付添人」は患者の居住地に行く。その際、医師が準備したペントバルビタール・ナトリウムと呼ばれる致死薬を持参する。家族や友人らに囲まれ、患者はその致死薬を自身が飲む。亡くなると、警察側の実況見分が行われて安楽死は終わる。

スイス・インフォ(9月7日付)によると、20代後半の重度な神経疾患を持つ日本人女性がスイスの自殺ほう助団体「ライフサークル」に自死の登録をしたという。同女性はツイッターで「スイスのライフサークルからGreen Lightほう助可能の知らせを貰いました。これで、やっと、死ねる」と書いている。彼女の場合、「生死に関わる病気ではないが、生活の質(QOL)が著しく悪い、そんな患者にこそ救済措置の一つとして『死ぬ権利』を認めてほしい」と訴えている。

注射などで実施する「積極的な安楽死」を公認している国は欧州連合(EU)ではオランダ、ルクセンブルク、そしてベルギーの3国だ。バチカン・ニュースによると、スペインが目下、「積極的な安楽死」を認める方向だという。認知されれば欧州で4カ国目となる。

一方、延命装置を外すなどの「受動的な安楽死」を認める国は年々増えてきている。ドイツでも今年2月26日、独連邦憲法裁判所は自死への自己決定権を認め、第3者のほう助を受けた自死も合法とし、自死ほう助を禁止してきた刑法217条を違憲と判断している。オーストリア憲法裁判所(VfGH)は今月11日、「自死を願う人を助ける行為を刑罰犯罪とすることは自己決定権への侵害にあたる」として、2022年1月1日を期して関連条項を削除すると表明したばかりだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年12月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。